第258話 長身の魔法分隊隊長
アーデルハイトを取り囲むように集まったトール達のところへ、身長が2メートルはあろうかという恐ろしく背の高い女性が近づいてきた。
アーデルハイトと同じ制服を着ている。
トール達は、年長組の戦闘服と第7魔法分隊であることと背の高さから、噂でしか聞いていなかった彼女の名前に気づき、緊張が走った。
その名は、ヴィルヘルミナ・グッゲンハイム第7魔法分隊隊長。
トールでさえ目線の位置からは見えないが、肩章の金星は最高の4個だ。
年長組の最年長である三年生がどんなに頑張ってもせいぜい金星3個止まりのところ、4個の肩章をつけているのは、ローテンシュタイン帝国でも五人しかいない。
そんな英傑のような人物が、目の前にいると言うだけで、トール達は石のように固まっていた。
彼女はトール達を見下ろすのではなく、背を曲げて笑顔を近づけながら声を掛けた。
その声は、男性の声に近く、威厳に満ちていた。
「君がトール・ヴォルフ・ローテンシュタインか。この世界で最高の魔力の持ち主と聞いている。此度の戦いでは、我々第7魔法分隊に協力してもらう。大いに活躍を期待しているぞ」
「は、はい」
彼女はこの調子で一人一人に優れた能力等にスポットを当てて声を掛けてきたが、イゾルデの時は気を遣った。
「君がイゾルデ・ヴァルハルシュタットか。エルフ族出身で気が重いと思うが、我々に協力してくれるな?」
イゾルデはヴィルヘルミナを見上げて、きっぱりと答える。
「もちろんです。私はたまたまエルフ族に拾われただけで、私を悪事に利用するエルフ族には恩義を感じていません。討伐とあらば、喜んで参加します」
「そうか。よく言った。大いに期待しているぞ」
この後、トール達六人は二人ずつ3台に分乗し、ローテンハイムの宮殿へと向かった。
トールとマリー=ルイーゼが乗り込んだ荷台には、アーデルハイトの他に第7魔法分隊所属の二人が護衛として乗っていた。
トールはフランク帝国での冒険譚をアーデルハイトに聞かせてあげたかったのだが、護衛の4つの目が気になるので黙っていた。
それがイライラの原因となり、彼の顔にまでそれが現れていた。
ローテンハイムに到着したのは、6時過ぎ。
夏なのでまだうっすらと明るいが、風は涼しくなっていた。
荷台から滑るように降りたトールは、着地すると直ぐさま、体をボキボキ言わせるほど背伸びをした。
目の前には、石造りの豪華な宮殿がそびえ立つ。
それを見上げる彼の横に、アーデルハイトが近づいてきた。
「どう? 車の長旅は?」
トールはずっと黙っていた拷問のような旅から解放され、笑顔を彼女へ向けたが、本心とは違う言葉を口にした。
「全然平気です」
「頼もしいわね。これから情報相と会うけど、びっくりするような情報を聞かされるから、覚悟してね」
「覚悟が必要なんですか?」
「ええ。ここじゃ言えないけれど、敵は先日倒した巨人の比ではないことは確かね」
「そんなに凄いんですか?」
「詳しくは中で。そうそう。中にいる双子にもびっくりしないでね」
「双子?」
「それは会ってからのお楽しみ」
アーデルハイトはそう言って、悪戯っぽく笑った。
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