第252話 罠に飛び込む
クラウス先生による魔法講座は、深夜にまで及んだが、生徒の魔法の習得は芳しくなかった。
結局、あれから変わらずという状態。つまり、先生の合格が追加で出た者はいなかった。
さすがに教える方も疲れたので、クラウスは訓練を中断した。
とその時、自分の部屋に戻っていたメビウスが、手紙を持ってクラウス達の所へやってきた。
自分が放ったフクロウではない別の白いフクロウが、研究所へ手紙を持って飛んできたというのである。
それは、トール宛ての親展。
アーデルハイト・ゲルンシュタインの手紙なら、運ぶのは鳩ちゃんのはず。
不審に思って手紙を開いたトールは、魔法省の下級役人からのものとわかって、さらに首をひねった。
『朝8時に、ヒュッテンの役所に一人で来て欲しい。他言無用』
ヒュッテンは、研究所から車で1時間の距離の町。
魔法省は帝国首都であるローテンハイムにあるのに、わざわざ小都市のヒュッテンの役所へ呼び出すのはなぜか?
まずます怪しく思ったトールは、他言無用を無視して、クラウスに相談した。
「どう考えても、この呼び出しは変だよ。とうとう、ここにいることがバレたね、連中に」
クラウスは真剣な顔つきで、顎に手を当てた。
そこへ、腕組みしたメビウスが言葉を継ぐ。
「この研究所はわしが編み出した高度な魔法で防御しているから、さすがの連中でも手も足も出せぬはず。だから、おびき出すことにしたのだろう。誘いに乗らん方がよいと思うがな」
しかし、トールはあえて誘いに乗ることを提案する。
「ここでジッとしていても、先には進みません。僕らを動けなくすることが連中の狙いなら、まんまと術中に嵌まったことになります。敵の実力も知りたいし、罠ごと吹き飛ばしてやりますよ。習った防御結界の実力も試すチャンスです」
「それは無茶だ」
メビウスが首を横に振る。
「でも、チャンスがあるなら、挑戦しないと。やるなら今です。やらずして後悔したくはありません」
「君のその自信たっぷりの話を聞いていると、無謀とは思えなくて、本当に相手をやっつけてしまう気がするから不思議だよ。じゃあ、僕が車を出そう。朝7時出発だ。いざとなったら、僕が援護するから」
クラウスは、親指を立ててウインクした。




