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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第四章 魔界騒乱編

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第250話 天空の魔王

 同じ頃、ヴァルトシュタインは、彼の右腕である女剣士のゲルダを連れて、天空の魔王の謁見へ向かった。

 二人とも、夏だというのに黒いフードに黒いローブという出で立ちだ。

 彼らはいつものように、森の西の外れにある秘密の扉から魔王の宮殿に入る。

 時空が曲がっているので、実際にそこに宮殿があるわけではないことは、彼らも知っている。

 しかし、実体がどこにあるのかまでは知らない。


 長い廊下に並ぶ多数の衛兵の視線を浴びながら、二人は廊下に視線を落とし、やや前屈みに歩く。

 いつ見ても、様々な魔物の顔をした衛兵が不気味だからだ。


 謁見の部屋へ入る前に、狭くて暗い別室で、彼らの武器は衛兵によって没収された。

 特に、十本の腕を持つゲルダは、黒いローブの下から多数の剣や斧や槍を差し出すことになる。

 これを衛兵が五人がかりで回収するのはいつものことだが、ゲルダにとっては、煩わしいことこの上ない。


 そして、仕組みも構造もよくわからないが、その別室から衛兵が立ち去ると、部屋全体が上昇していく。

 その長いこと長いこと。

 やっとグラグラッと来て、上昇が停止し、二人は謁見の間に近づいたことを知る。

 入ってきた時と反対側の扉が開いて、外から顔を覗かせたオオカミの顔をした衛兵が「来い」と言う。

 ヴァルトシュタインもゲルダも、いつものように心の中で『てめー、偉そうに!』と吐き捨てる。


 オオカミの衛兵に案内されて、少々廊下を歩き、正面に聳える仰々しい謁見の間の扉を仰ぎ見た二人は、ため息をつく。

 それは条件反射のような物だ。

『気が重いぜ』

『だね』

 二人は顔を見合わせて、無言で言葉を交わす。


 開かれた扉の奥に、無人の玉座が見え、左に九尾の狐、右に鷲の頭を持つ獅子が見えた。

 ヴァルトシュタインとゲルダは、無人の玉座に一礼し、進み出る。

 そして、部屋の真ん中で左膝を床につけ、右膝を立てる姿勢を取る。

 右手は床に、左手は胸に。

 二人は、無人の玉座を見上げ、挨拶をしようと口を開けた。

 すると、玉座の方から低くて太い男の声がする。

「虚礼は良い。用件を先に聞こう」

 ヴァルトシュタインは、姿が見えない天空の魔王に向かって、緊張の面持ちで用件を述べる。

「先般のご支援の件について、ご相談に参りました」

「支援? 他にやるべきことがあるから、後回しのつもりだが」

 ヴァルトシュタインは、『やはりそうか』と心の中でつぶやく。

 そして、用意していたカードを切ることを決意する。


「あの魔王を倒した少年が、こちらに向かっております」

「知っておる」


「目的はご存じでしょうか?」

「知らぬ。ちょうど、気になっておったところだ。そちは、何か知っておるのか?」


「はい。それは、次の討伐です」

「その言葉に、嘘偽りはないな!?」


 見えない魔王の強い語調に、巨体のヴァルトシュタインはブルッとし、両方の手のひらがひどく汗ばんだ。


「ございません」

「なんと。魔界を畏れぬ不届き者めが。して、次の奴の狙いは?」


「こちらの宮殿に乗り込むもようでございます」

「つまり、このわしか? ……他の奴らに足を向ければ良いものを。さすれば、さらに領地を広げられるのだが」


「いっそのこと、ローテンシュタイン帝国ごと葬ってはいかがでしょう?」

「それもよいな。楯突く者は容赦はせん。ただし、わしらだけでは無理だ。当然、お前達も全面協力してもらうぞ」


「もちろんでございます。その次は、隣接するスカルバンティーア大公国も」

「先にそちらを叩いても良いが。所詮、人間が勝手に線引きをした境界線など、わしらには無縁のもの。魔界の領地と人間の領地は、同じ境界ではない。どこをどう叩こうが、2つともこのわしの領地内だ」


「では、ローテンシュタイン帝国を先にして、あの危険な少年ごと――」

「攻める順番を決めるのは、このわしだ。話はわかったから、結論を待て。明日回答するから、明日の同じ時間にここへ参れ」


「承知仕ります」

 ヴァルトシュタインは、胸のつかえが下りるのに合わせて、深々と頭を下げた。

 ゲルダも遅れまいと、慌てて頭を下げる。


 このエルフ族の仕掛けた罠が、魔界に波紋を呼ぶとは、この時誰も気づかなかった。

 彼らが夢見るグリューネヴァルトの分離独立は、とんでもない方向へ発展してしまうのである。


   ◆◆◆


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