第249話 賞金稼ぎ
午後七時。
馬車が着いた町は、メーヴェンブルク。
そこには、メビウスが所長を務めるローテンシュタイン帝国魔法科学研究所がある。
ボロボロになった幌に好奇な目を向けられていた馬車は、研究所前でトール達を厄介者のように降ろすと、そそくさと去って行った。
幌の弁償代まで払わされたトールは、財布がスッカラカンになった。
こんなことになるのだったら、フランク帝国で前金を少しでも持ち出しておけば良かった、とも思ったほどだ。
彼らは荷物を抱え、一番奥の離れみたいな二階建ての建物へ向かった。
異世界へ転生して、最初に食事をした場所であることは、彼らも覚えていた。
すると、無性に腹が減ってきた。
なぜトールがここへ立ち寄ったかというと、連中が落としていった手配書らしい紙をメビウスやクラウスに見せて、助言を請うためだ。
ちょうど建物で休憩していたメビウスとクラウスは、両手を広げて彼らの帰還を喜んだ。
「クラウスさん。見せたい物があります」
トールは、抱きつくクラウスの耳元で、喜びの声よりも早く伝えたい用件を言った。
「まあまあ、それは後。『留学』帰りの君達は、何も食べていないだろう?」
クラウスは、『留学』の言葉を強調しながら、ウインクして答えた。
もちろん、魔王討伐のための出国を留学名目で行ったことを知っての行動だ。
一階奥の白い食堂でパンやスープや果物にありついたトール達は、最初にここで野生児のようにかぶりついたことを懐かしく思いだした。
なお、黒猫マックスは、今回もミルクだったが。
「ところで、見せたい物って?」
クラウスはそう言って、トールから紙を受け取った。
すると、彼は、目を皿のように丸くする。
トールは、その態度に、やはり『手配書』であることを確信した。
「クラウスさん。これ、どこの国の文字ですか?」
「ああ、これかい? スカルバンティーア大公国の文字だ」
「なんて書いてありますか?」
「読んでいいのかね? 気を悪くするよ」
「それでもお願いします」
「お尋ね者。この少年、凶暴につき、見つけ次第、捕獲もしくは殺害されたし。賞金は捕獲なら2万フローリン、殺害なら5万フローリン。以下の五人の女と行動しているもよう。女は一人につき捕獲5千フローリン、殺害2万フローリン」
「やっぱり、そうでしたか。見た感じ、手配書に見えましたし。ところで、1フローリンの価値はどれだけですか?」
「スカルバンティーア大公国の今のレートで言うと、10フローリンで1日宿に泊まって食事をしてって感じかな?」
「というと、フランク帝国の1ルゥ・ドゥオールみたいなものですか?」
「うーん、イコールではないが、かなり近いね」
「ありがとうございます」
トールは、ヒルデガルトが『1ルゥ・ドゥオールが1万円みたい』と言っていたことを思い出す。
ということは、1フローリンはおよそ1千円。
殺害すると日本円でおよそ5千万円という賞金だ。
彼は、四人が賞金稼ぎだったと推測した。
物騒な武器を持っている連中は、自分達の命を狙っている。
彼はここで、自分の大技がスピードに弱いことを思い出した。
「クラウスさん。実は、僕達は帰還の途中で賞金稼ぎに命を狙われました」
「それは、本当かい!?」
「ええ。その紙は、連中が落としていった物です。その時、戦って気づいたのですが、彼らの攻撃に対して、僕達は大技を出すのが遅くて、下手をすると負けてしまいます。スピードアップする方法はないでしょうか?」
「今持っている魔法をスピードアップすることはできない。溜めが必要な魔法だからね。先生から他の新しい魔法を教わって覚える方が早いかも」
「その先生はどなたですか?」
「目の前にいるよ」
クラウスは、ニヤリと笑った。
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