第244話 エルフ族の暗躍
第四章の物語の舞台となっているローテンシュタイン帝国の言葉、地名、人名、固有名詞は、ドイツ語がベースとなっています。また、スカルバンティーア大公国の言葉は、ハンガリー語がベースです。
でも、実在する地名、人名、固有名詞には全く関係ありませんし、定冠詞を省略したり、単語をつなげたり、発音も方言っぽくなっています。ですので、あくまで異世界の言葉として捉えていただけると助かります。
では、ごゆっくりお楽しみください。
[第四章の主な登場人物]
トール・ヴォルフ・ローテンシュタイン…異世界最強の主人公。一乗ハヤテが転生
シャルロッテ・アーデルスカッツ…………ハヤテの幼馴染み。二城カリンが転生
マリー=ルイーゼ・ゾンネンバオム………ハヤテの幼馴染み。参上ナナセが転生
ヒルデガルト・リリエンタール……………ハヤテの幼馴染み。市場アオイが転生
イヴォンヌ・サン=ジュール・ピカール…ハヤテの幼馴染み。五條アリスが転生
イゾルデ・ヴァルハルシュタット…………ハヤテの幼馴染み。禄畳ミチルが転生
黒猫マックス…………………………………魔力を持つ黒猫。ニャン太郎が転生
ハルフェ・ドライシュタイン………………百年前の、異世界からの転生者
ヴィルヘルミナ・グッゲンハイム…………第7魔法分隊隊長。年長組三年
アーデルハイト・ゲルンシュタイン………第7魔法分隊副隊長。年長組一年
エーリッヒ・ローテンシュタイン…………ローテンシュタイン帝国皇帝
テオドール・ロイトキルヒ…………………ローテンシュタイン帝国魔法相
ネリー・アンドレーエ………………………ローテンシュタイン帝国情報相
ロム・リュッベンドルフ……………………アンドレーエ直属の双子の密偵。青緑髪の姉
ラム・リュッベンドルフ……………………アンドレーエ直属の双子の密偵。赤紫髪の妹
ハンス・メビウス……………………………魔法科学研究所所長
ゲオルグ・クラウス…………………………メビウスの助手。帝国魔法学校非常勤講師
ゾフィー………………………………………大地の精霊
アンジェリーナ………………………………天空の精霊
フェニクス……………………………………火の精霊
アクアリウス…………………………………水の精霊
グラキエス……………………………………氷の精霊
ブラオエンヴァルト…………………………草木の精霊
ヴァルトトイフェル…………………………魔王
グライフスシュタイン………………………魔王の幹部の一人。鷲の頭を持つ獅子
シュラーゲンシュタイン……………………魔王の幹部の一人。九つの頭を持つ大蛇
フックスシュタイン…………………………魔王の幹部の一人。九尾の狐
ヴィヴィエンヌ………………………………魔界の絶世の美女
ヴィヴィアーヌ・フーコー…………………野獣の魔王の元親衛隊隊長。ヴィヴィエンヌの本名
オスカル………………………………………水晶の魔王の側近
ティルダ………………………………………水晶の魔王の親衛隊隊長
<エルフ族>
ジクムント……………………………………四天王の一人
フリードマン…………………………………ジクムントの右腕。心を読む
ガイガー………………………………………四天王の一人
マティアス……………………………………ガイガーの右腕。幻視幻聴を操る
ヴァルトシュタイン…………………………四天王の一人
ゲルダ…………………………………………ヴァルトシュタインの右腕。十本の腕を持つ
キルヒアイス…………………………………四天王の一人
ツェツィーリア………………………………キルヒアイスの右腕。韋駄天の足を持つ
<スカルバンティーア大公国の賞金稼ぎ>
サボー・フリジェシュ………………………魔剣の遣い手
エステルハージ・モニカ……………………洋弓の遣い手
コルダ・エンマ………………………………火器の使い手
コチシュ・イレーン…………………………魔術師。錬金術師
グリューネヴァルト。
それは、茫漠たる平原の遠くで湧き上がる深緑の雲にも見える森。
中を歩くと、木々の葉が幾重にも重なるため、地面にはわずかな光しか届かないことに驚く。
その暗さゆえ、別名シュヴァルツヴァルト。
魑魅魍魎が跋扈するとも恐れられるこの黒い森に、エルフ族が隠れるように住んでいる。
彼らの暮らしは、決して楽ではない。
だが、彼らは、未だに近代化の波を拒み続け、古い道具を使いこなし、古いしきたりを頑なに守る。
なぜなら、隣接する二つの宗主国のように貧富の差が広がるよりはましだ、と考えているからだ。
その閉鎖的社会ゆえ、古来伝わる独自の魔法や、呪詛の遣い手が数多く残っている。
彼らが森の外へ出る機会は、あまりない。
せいぜい、魔法の道具を買いに行くくらいだ。
凶作が続けば、やむなく生活必需品も買いに行く。
それ以外は、外界との接触を嫌うかのごとく、森にこもったまま。
以上は、ここ百年間の話。
実は、百年以上前は今と真逆で、周辺諸国と活発な交流があり、活気にも満ちていた。
それが途絶してしまった原因は、たまたま国境に森が隣接していたというだけで、何の罪もない彼らを巻き込んで始まったローテンシュタイン王国(当時)とスカルバンティーア大公国との領土争い。
東西へ領土を拡大する両国が、この森を丸ごと取り込もうとしたが、すでに双方と交流があるエルフ族は、どちらか一方に帰属することを拒否。
すると両国は、自国と友好的なエルフ族の部族を自陣へ引き込み、最前線で戦わせた。
それは、エルフ族が魔法や呪詛が得意だったからである。
勝利の暁には莫大な褒美を与える、とそそのかされた彼らは、同族を刃に掛ける。
しかし、戦況は膠着し、両国民もエルフ族も疲弊して和睦。
その結果、国境は、地図上の森の真ん中に定規によって引かれ、その無情な一本の線分が土地と民を東西に分断した。
さらに、国境の印として、強力な遺物が打ち込まれた。それが何かは、後でわかる。
人的被害が大きかったエルフ族は、森が焼け、親族が引き裂かれ、接近を拒絶する遺物を見て、自分達の愚かさに気づいた。
百年後の彼らは、大国からの分離独立を夢見て、密かに動き出す。
悲願達成のためなら、手段を問わない。
神に遣われし子、つまり、異世界転生者を手に入れようとする。
魔界の者達さえも利用する。
『積年の恨みを晴らす』
それが彼らの合い言葉だった。
◆◆◆
トール達がフランク帝国で魔王討伐完了の祝賀会が終わった頃、グリューネヴァルトでは、松明を持ったエルフ族の六人が急ぎ足で森の外を目指していた。
しかし、背後から接近した黒ずくめの者達数人に、あっという間に襲われてしまう。
剣の摩擦音。短い悲鳴。閃光。
それらは一瞬の出来事のように消えていく。
そして、彼らが落とした松明が踏み消されるまで、1分も掛からなかった。
再び訪れた漆黒の闇。
森の中は、月明かりの一筋すら届かない。
低木の葉のこすれる音、苔の臭い、足音のみの世界なのだ。
その中を、全身黒ずくめの者が、まるで夜行動物のように、道なき道を迷うことなく走る。
黒ずくめの一人が、広めの空き地に姿を現した。
月明かりが高木に隠れていて、ここでも暗い。
星の明かりだけでも目的の物が見えるかのように、そいつは短く詠唱し、右手を差し出した。
すると、その手の先の空間がユラリと水紋のように揺れる。
そいつは、揺れる空間へ足を踏み入れて、忽然と消えた。
続いて、別の黒ずくめの一人もやってきて、同様の方法で姿を消した。




