第242話 勇者の誕生
ここでまた、トールの周りで大きな拍手が起こった。
「そうだ、そうだ」と言う声も。
指笛も、歓声も。
踏みならす足音までも。
集会場全体が、歓喜の声に包まれた。
魔法組合のみんなが、魔法を使わない町のみんなが、ガルネの勇者を最大の敬意を表して称えたのだ。
トールは、イヴォンヌが昔伝えてくれたことを思い出した。
「フランク帝国最高の予言者が、あなたの未来を占った」
「あなたは、今すぐ冒険者か勇者になるという未来が見えた」
確かに、その予言通りになった。
もちろんそれは、異世界に転生した彼の、たっての願いでもあった。
歓喜の声が彼を包む。
栄光の頂点に立つ瞬間。
だが、真の勇者となったものの、彼の気持ちは晴れなかった。
やはり、自分は弱者に対して優越感を抱きたいのだろうか?
自分だったら『人に迷惑を掛けておいて、「当然の権利」だと鼻息荒く、金を独り占めする相手』には、激しく嫌悪感を抱く。そんな相手に自分自身がなりたくないからなのか?
「誰だって、そりゃあ、1枚でもルゥ・ドゥオール金貨は欲しいさ。ただ、弁償するって金貨の山を置いて行かれると、こっちだって『こいつ、金で人の気持ちを買う奴だ』って思うだけ。そんなことをするより、一緒に町の復興に汗水流してくれる方が、よっぽど信頼されるぞ。だから、また弁償なんて言い出したら――」
ここでジャクリーヌは、長く煙を吐く。
「永遠に軽蔑するからな。いいな? 人を顎と金で思い通りにできると考えないことだ。行動で償え」
とその時、どこからともなく白い鳩が飛んできて、トールの右肩に止まった。




