第240話 完全勝利の一方で
黒猫マックスが、トールの足下に近づいてきた。
トールはその気配を感じ、視線を向ける。
しばし見つめ合っていた彼らは、同時に視線を切ってため息をついた。
「小僧。やっちまったな」
「そう言うと思ったよ」
「奴の宮殿を破壊するのはいいが――」
「町の無傷の建物まで破壊してしまった、って言いたいんだよね?」
「なんだ、わかっているのか」
「どうしよう。なんて、謝ろう……」
「そりゃひたすら謝るしか――」
「ないよねぇ」
「「はああああ……」」
二人は同時にため息をついた。
その時、トールは肩を叩かれて震え上がった。
振り返ると、ジャクリーヌだった。
彼女は、首を左右に振る。
「恐ろしい力だな」
「あ、それは多分、口紅の――」
トールは、根拠があるようでないような言い訳に走った。
「いや。これが実力だ。おそらく、世界最高の魔法だ。自分の力を知っておくべきだな」
「確かに知っておくべきでした。すみません、無傷の建物まで壊してしまって」
「いいとは言えないが、この状況ではやむを得ないだろう」
「ありがとうございます」
トールは、目が潤んだ。
すると、遠くから拍手が聞こえてきた。
見ると、仲間全員が拍手をしながら、笑顔で近づいてくる。
トールは、その優しさに感動し、頬を伝う涙を拭くことも忘れた。




