第24話 若い助手の活躍
クラウスは、腰を落としたまま、右の手のひらを力強く前に出して素早く詠唱する。
すると、右手の先の宙に、銀色に光輝く幾何学模様と古代文字の魔方陣が出現した。
「隔壁!!」
彼の魔法名が発せられると、7メートル四方の正方形で厚みが1メートルの灰色の壁が、突進する三人の眼前に現れた。
彼らは、突如現れた壁に避ける暇もなく、まともに激突した。
作用反作用の法則通り、壁へ激突した力そのままで壁から殴られた形になり、全員が軽い脳しんとうを起こし、後ろ向きにドサッと倒れた。
しかし、その直後、壁全体が光り輝いたかと思うと、無数の光の粒と化し、一瞬にして消え去った。
いったい、何が起きた!?
壁がなくなって見えてきた向こう側では、黒マント姿の二人の魔法使いが右手のひらを前に差し出し、右手の先の宙に、金色に光輝く魔方陣を形成していた。
彼らの魔法により、いとも簡単に隔壁が破壊されたのだ。
クラウスはヒュウと口笛を吹いて腰を上げ、両腕の袖をたくし上げる。
「なんと、これを一瞬で消すとは。なかなか気合いが入った御仁と見える」
彼は黒い上着を脱ぎ、後ろへ放り投げる。
「でもねぇ、今、力いっぱい魔力をぶつけたでしょう? いいんですか? 初っぱなから最大で? そんなことしたら、魔力が激減して、息が続かないですよ」
次に、彼は白シャツの一番上のボタンを、引きちぎらんばかりの勢いで外す。
「つまり、連中は必死。手抜きしてちゃ駄目」
そうして、彼は両手で太ももと頬を強めにパンパンと叩く。
「ってことは、ちょっと、こっちも気合いを入れないとね」
彼はそうつぶやくと、再び全身にくまなく金色の光を纏った。
さらに強化魔法を追加発動したのだ。
先ほどまで草むらに倒れていた三人は、鼻を押さえ、頭を抱えながらヨロヨロと立ち上がり、落とした武器を拾い上げて、クラウスをものすごい形相で睨みつけた。
クラウスは、連中に聞こえるようにつぶやく。
「魔力0の三下は、睨むくらいが関の山。話にならないね」
これに剣士のプライドが反応した。
「何だとぉ! てめええええええええええ!!」
また三人は集団でクラウスに襲いかかる。
クラウスは、これから彼らの身の上に起こる悲劇を思い浮かべつつ、再び腰を落とし、右手のひらを前に出して素早く詠唱する。
すると、右手の先の宙に、今度は黄金色に光輝く幾何学模様と古代文字の魔方陣が出現した。
彼は、後6メートルに近づいた連中に最後通牒を突きつける。
「さあ、逃げた方がいいよ、三下くん」
後3メートル!
「烈風!!!」
彼の魔法名が発せられると、魔方陣からビュウウウウウウウウウウという大型台風のような烈風が噴出され、武器を振り上げた三人を直撃した。
彼らは武器と一緒に、宙へ舞い上がるぼろ切れのように吹き飛び、魔法使いが立つ辺りの地面に激突する。
そして、ゴロゴロと石だらけの地面の上を転がり、白目をむいて動かなくなった。
直撃から激突まで、1秒もかからなかった。
20メートルほどの距離を1秒以下なので、時速72キロメートル以上で飛ばされたことになる。
これでは助かるわけがない。
まさに瞬殺である。
クラウスは、彼らが滑稽な姿で飛ばされたので、たまらず吹き出してあざけり笑う。
そうして、顔の前で人差し指を立てて左右に揺らした。
「チッチッチッ。魔力0の筋肉馬鹿は、僕らに楯突かないことだよ。人外境からの帰還を信じろだって? なら、ボロボロで泥だらけの形に偽装しなくちゃ。手伝えって言うから手伝ってあげたんだけどね。骨が何本折れたかな?」
一方、二人の魔法使いは、目の前で両手を罰点印のように交差し、烈風魔法を防御していた。
彼らは、風が収まったので、防御の手を下ろした。
クラウスは、「あいつらがそもそもの黒幕なんだよね」とつぶやくと、魔法使い達に向かって大声で叫ぶ。
「そいつらを盾に、何逃げているんだい!? 君達の方が遙かに力が上じゃないか!? 盾を利用してまで成し遂げたかった君達の悪事は、とっくにバレているよ! どうした? 防戦一方で、かかってこないのかい?」
魔法使い達は、クラウスの挑発にも、まるで言葉が通じないかのように、沈黙を貫く。
彼らの頭巾の中に見える血走った両目が、眼前の獲物を狙うかのように、鋭くギラギラと光っていた。
その眼は、闇の中に浮かぶように見え、不気味さを倍加する。
ここでクラウスは、鎌をかけた。
「ヤクシェパンナゼヴァ?(名前は?)」
この問いかけに対して、クラウスから見て左側の魔法使いが何かを言おうとした。
しかし、右側の魔法使いがすぐさま彼に向かって小声で叫び、発言を制した。
クラウスは、「やっぱ、ね」とつぶやいて鼻で笑った。
「君達はお隣のポーレ王国から来たんだね。まんまとポーレ語に反応しちゃってさ。ローテンシュタインの言葉はわかってるんだろう? そっちの国じゃ、市場で果物売っているおばちゃんだって、ローテンシュタイン語はしゃべれるよ。なんせ、うちの特産品を仕入れて売っているのはそっちだし」
右側の魔法使いが強く舌打ちをして、クラウスの方へ歩み寄ってきた。




