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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第三章 魔王討伐編

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第236話 魔王との一騎打ち

 これで、魔力の供給源をすべて断たれた魔王(サタン)は、体内に残っている魔力だけで自分を治癒しなければいけなくなった。

 攻撃で動かせるのは、右腕と両足だけ。


 着地したトールは、連続攻撃が続いたので、ちょっと一息をついた。

 だが、これが油断を見せた形になった。

 棒立ち状態になっていたところへ、古代の神殿で見かける太い円柱のような足で、蹴り飛ばされてしまったのだ。


 長剣は、カランカランと金属音を立てて遠くへ飛んでいく。

 放物線を描いて、床へ頭から落下した彼は、激しい頭痛で頭を押さえる。

 そこへ、マリー=ルイーゼ達が「「上! 上!」」と叫ぶ声が聞こえてきた。

 見上げると、天井の半分を隠すくらいに足の裏が迫っている。

 トールは、素速く体を回転させて、回避。

 同時に、床が縦揺れするほどの振動が起きた。

 彼の服の一部が、野獣の踏みつけた足にかすった。

 きわどい回避だった。

 トールは、再び跳ね起きで立ち上がる。


 そこへ、野獣が右の拳を振り下ろしてきた。

 長剣を拾いに行く時間がない。

 トールは、拳にありったけの力を込めて、一か八か、防戦することにした。

 巨岩のような拳が振り下ろされ、豆粒のような拳が振り上げられる。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 双方の拳が激突した大音響が、エントランス中に鳴り響いた。

 大きさでは圧倒的に野獣が有利だが、トールの拳の威力は、その大きさでは計れない。

 むしろ、巨岩の拳がフワッと浮いた。

 野獣が引いたのではない。押し負けたのだ。


(拳で、このデカ物に勝てる!)


 トールは、強く確信した。

 今度は、巨人が拳を大きく振りかぶって、勢いよく突き出してくる。

 負けじと、こびとも拳を大きく振りかぶり、さらに力を入れて正面からぶち当たる。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 砲声のような音がエントランス中に轟いた。

 野獣は大きくよろめき、尻餅をつく。

 ついに、魔王(サタン)に土が付いたのだ。

 いや、まだ体力を残しているようだ。

 ゆっくりと腰を上げ、片膝付いた状態になった。


「倒れろおおおおおっ!」


 トールは素速く跳躍し、野獣のみぞおちへ狙いを定めた。

 そして、宙を浮いたまま、大きく振りかぶった拳に全体重を乗せて、目にもとまらぬ速さで打ち込んだ。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 あり得ないことが起こった。

 背丈が23メートルの巨体の野獣が、トールの拳を食らい、くの字になって水平方向へ吹き飛んだのだ。

 野獣は、大音響を上げて扉に激突。

 エントランス全体が横揺れする。

 巨体の激突で、扉が少し外側へ歪んだ。


 トールは、ここで勝負を賭ける。

 次の一撃で倒す!

 中腰になった彼は、両方の拳を握りしめ、全身に力を入れた。

 腕にもこめかみにも、太い血管が浮き上がり、体の中心で魔力がマグマのように対流する。

 全身の毛穴から蒸気が噴き出しそうなほど、熱くなる。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」


 憤怒に似たもの凄い形相で、目の前の野獣を超える野獣のように咆哮した彼は、再び跳躍し、今度は眉間に狙いを定めた。

 そして、大きく振りかぶった拳に、再び全体重を乗せ、加速してたたき込む。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!


 爆発のような衝撃音がエントランス内に轟く。

 扉の両側の蝶番部分が、バリバリと音を立てて外れた。

 歪んだ扉が、野獣ごと外へ吹き飛ぶ。

 奴は、扉を背負ったまま仰向けに回転しながら、大音響を立てて、宮殿の外へ転がった。


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