第233話 魔王の反撃
扉の外で続いている攻撃音や勇ましい声は、巨大で厚い扉に阻まれ、遠くで起きている争乱のように聞こえている。
そんな防壁のような扉を前にして、魔王はジャクリーヌ達に背を向けたまま立ち尽くす。
想定外の攻撃に混乱しているのか?
否である。
マントの裂け目も、肩や足の傷も、みるみるうちに消えていく。
自己治癒の魔法だ。
この回復を待っていたのだ。
魔王は、時計回りに体を回して、ジャクリーヌ達に正面を向ける。
すかさず、右手を前に突き出して、黒い肉厚の手のひらの先に、金色に輝く巨大な三角形の魔方陣を出現させた。
三角形の一辺は、5メートルはあるだろう。
その三角形の3つの頂点には、丸い小さな魔方陣が組み合わされている。
トール達異世界転生組六人は、初めて見る形とその大きさに驚愕した。
その時、魔方陣がフラッシュのように輝いた。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオー!
空気が揺らいで見えるほどの強烈な突風が魔方陣から出現し、ジャクリーヌ達十三人と老人達九人を一度に吹き飛ばす。
全員が、嵐に飛ばされた小枝のように転がり、エントランスの壁に激突した。
次に、魔王は、右手を引っ込めて左手を前に出した。
「まずい!! 奴の必殺技だ!! 全員、あたしの後ろに隠れろ!!」
ジャクリーヌが大声を上げて前に出て、左手で自分の後ろを指し示した。
倒れていたトール達ピカール魔法組合組は、彼女の背後へ転がり込む。
魔王の左手のひらの先に、金色に輝く巨大な三角形の魔方陣が出現した。
老人達も這いつくばるように背後へ入る。
その時、魔方陣がフラッシュのように輝いた。
同時に彼女は、両手を前に突き出し、「防御!!」と叫んだ。
バリバリバリバリバリ!
稲妻のような形状の太い光線が、轟音とともにジャクリーヌ達を襲う。
彼女が半球状に張って全員を覆った防御結界は、その攻撃を果敢に食い止めた。
ところが、その光線は一時の雷ではなく、大電流のように間断なく続く。
しかも、威力がさらに増していく。
彼女は右足を前に出して、腰を少し低くし、歯を食いしばってこれを防ぐ。
しかし、顔面が真っ赤になり、腕が、足が小刻みに震えた。
「これは、一人では持ちこたえられん!」
老人の一人が立ち上がり、ジャクリーヌの右横に立って、同じ姿勢を取った。
「わしも行くぞ!」「わしもだ!」
次々と老人が立ち上がり、彼女の左右に分かれ、全員が防御結界の支えに入った。
しかし、魔王は、さらに光線を太くし、結界の前半分を覆うほど力を強めた。
「「「ぬおおおおおおおおおおっ!!!」」」
老人達も、顔を真っ赤にして、小刻みに震えながらこれに耐える。
これでは、結界が破られるのは、時間の問題だ。
全員に緊張が走る。
とその時、軍用ゴーグルをつけたヒルデガルトがトールへ近づき、背伸びをして耳元で囁く。
「魔力の供給源がわかった。あのネックレスにある紅、金、碧の3つの玉。あれを壊せばいい」
トールは、はたと膝を打った。
「イヴォンヌ。ファンデーションとブレスレットをくれるかな?」
ファンデーションは、1分間、自分が透明になれる魔法のアイテム。
ブレスレットは、1分間、瞬発力を上げるアイテムだ。
イヴォンヌからそれを受け取ったトールは、ジャクリーヌに大声で問いかける。
「マスター! 結界の右側を一時的に開けられますか!?」
「できるが、何をする!?」
ジャクリーヌの声は、苦しそうだ。
「あいつの魔力の供給源を断ちます!」
「やれるのか!? 奴は、そこに誰も近づけさせないぞ!」
「任せてください! 僕が『ソーティ!』と合図したらすぐ開いて、1、2、3のタイミングで結界を元通りに閉じてください!」
「わかった!」
トールは、右腕にブレスレットを装着し、長剣の柄を握った。
そして、左手を使って顔にファンデーションを塗った。
彼と長剣は、瞬時に透明になった。




