第232話 団結した仲間達の一斉攻撃
「うぬっ!? あれは何だ!?」
魔王は、地響きを立てて、たじろいだ。
彼の視線に立っていないジャクリーヌ達は、何が起きているか皆目見当がつかない。
ただ、その狼狽えぶりと外の声の様子から、魔物の集団が王を称えるために近づいてきたのではないことは明らか。
だとすると、魔法組合の仲間のはずだ。
突然、風の流れを切り裂く音が連続して聞こえてきたかと思うと、無数の光る矢が密集して飛んできて、魔王の服に突き刺さる。
続いて、光る球も霰のように飛んできて、彼の服に着弾すると次々と爆発する。
味方であることが確実になった。
ガルネ、ヴェルサイユ、そしてルテティアの魔法組合の仲間が、協力し合って魔法を繰り出しているのだ。
「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオー!!」
怒りに我を忘れた魔王は、野獣のように咆哮し、筋肉をこわばらせ、突き刺さった針のような矢を一気に吹き飛ばした。
それらの矢は、逆方向へ勢いよく、散り散りに飛んでいく。
野獣は、床を波打たせるほど揺らして、ゆっくりと後退した。
やはり、巨体は、機敏には動けないようだ。
怒り狂う野獣は、ジャクリーヌ達を振り返らない。
チャンス到来である。
仲間の奮闘に援護すべく、ジャクリーヌ、トール、マリー=ルイーゼ、シャルロッテが刀剣を振りかざして、背中へ跳んだ。
オデットの強化魔法で強化されたアンリ、マルセルは、剣を牛の構えにして右足へ突撃する。
ブリジットの強化魔法で強化されたジャック、ルイーズは、剣を振り回しながら左足へ突進する。
宙を舞い、野獣の背中へ接近するジャクリーヌの頭の中で、四年前の出来事がフッとよぎる。
あの時は、右腕で防がれて、剣が折れた。
バキッという音が、今も鼓膜にこびりついている。
(弱気になるな! 剣を信じろ!)
彼女は、心の奥底から呼びかけてきた声に奮い立ち、渾身の力を込めて剣を振り下ろす。
正義の剣は、勝ち色のマントを突き抜け、分厚い皮膚を破り、硬くこわばった筋肉に深く食い込んだ。
初めての感触。
四年間夢にまで見た手応えに、柄を握る彼女の手が震えた。
トール、マリー=ルイーゼ、シャルロッテの刀剣も、波状攻撃のように、頸椎付近や肩甲骨付近を切り裂いた。
アンリ達やジャック達は、アキレス腱やふくらはぎに剣を突き刺した。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッ!!」
背後から複数箇所を同時攻撃された野獣は、悲鳴を上げて、大いに狼狽えた。
さらに正面からは、光る矢と火の玉の第二波の攻撃だ。
そして、ウワアアアアアーッと、鬨の声が上がり、集団が突進してくるような足音が急速に近づいてきた。
野獣は、刺さった無数の矢を筋肉の力で吹き飛ばし、さらに後退する。
とその時、巨大な二枚の扉が、開くときの何倍もの速度で、外に向かって閉まり始めた。
そして、大音響を残してピタリとくっつき、魔法攻撃を弾き飛ばす一枚岩になった。




