第23話 冒険者達の襲撃
剣士は、日焼けした筋肉の塊に、同じ色の丸い顔を載せたようなマッチョな男。
スキンヘッド。白目の割合が多いギョロッとした目。普通の人より二倍は太い眉と幅広い鼻。分厚い唇。
茶色の皮の上着は夏だからか半袖。黒くて太い革ベルトに深緑の半ズボン。焦げ茶色の短靴。
兜も胸当て盾もなく、そういった重装備で金目になる物はどこかに忘れてきたのか、奪われたのか。
持っているのは剣のみ。
剣士にしては、練習試合よりも軽装備な出で立ちだ。
初陣とは思えない面構えなのに、服は上から下まで下ろし立てのように真新しいのは解せない。
幅が広い両刃の剣をすでに鞘から抜いた状態なのは、斬りかかろうとしている魂胆が見え見え。
しかし、奴は、クラウスが気づいていないだろうと脳天気丸出しで口火を切った。
「おうおう、何をそんなに警戒しているんだ? 俺達は、あんたらに助けてもらいたいんだぜ」
クラウスは、冷ややかな目をしつつ表情を極力殺していたが、その言葉に口角のみ少しつり上げる。
「逆に、僕らが剣を抜いて近づいたら、君達は『僕らは何もしない』と信じるのかい?」
剣士は、刀身の平らな部分を右肩に載せた。
そして、分厚い唇に縁取られた黄色い歯をクラウスへ向けて、左手で『ほら、剣を引っ込めたぜ』という仕草をする。
「俺はそいつを信じないが、そいつは俺を信じてほしい主義で――」
「断る!」
クラウスは、声を荒げた。
剣士は、まだ軽薄な笑みを残したまま、クラウスを凝視し、左手を差し出す。
「まあまあ、そう言わず、聞いてくれ。俺達、ツァオバータール帰りなんだぜ。あの地獄の人外境は知っているだろう?」
クラウスは、無言を貫く。
「一緒に行った他のパーティがよう、全部やられちまったくらい、ひでえ戦いだったぜ」
剣士はクラウスがなおも無言なので、調子が狂ったらしく、落胆を露わにする。
「なんだてめえ、同情してくれたっていいのによう。……まあいい。心にもない情けをかけようとしているなら、かけなくていいぜ。とにかく、この哀れな俺達を助けてくれないか?」
クラウスは、言葉と表情がちぐはぐな奴の意図は見え見えだと辟易する。
しかしながら、彼はそれを顔に出さず、誘い手の意図を知らないふりをして問いかける。
「何を助けろと? まさか、ツァオバータールに舞い戻って魔物狩りを続けるから手伝えとでも?」
剣士は、額に左の拳を当てて目を堅くつむり、その顔で天を仰ぐ。
「ちげーよ。助けろってのは、胃袋のことだよ。戦い続きで三日も食ってねえし」
「ほー、三日も戦い続き、ねぇ」
剣士は、クラウスの語尾の響きから、疑念を持たれたことを感じ取り、急に真顔をクラウスへ向けて凄む。
「そうよ! ったりめえよ!」
「その形で?」
「へっ!?」
「上から下まで衣服が新品ってことだよ。しかも肌まで、さっき風呂に入ったかようにキレイさっぱり。何日間戦ったんだい?」
塗り固めた嘘がベリベリと音を立ててはがされた剣士は、顔をみるみるうちに歪め、肩に載せていた剣をクラウスの方へまっすぐ突き出して、ついに本性を現した。
「るせい! さっきからゴチャゴチャ人の揚げ足取ってねえで、おとなしく、こちとらに金よこせってんだよ!」
その言葉より少し早く、クラウスは短く詠唱し、全身をことごとく金色の光で包んでいた。
なぜなら、集団がそろそろ尻尾をつかまれたことに気づき、こちらに攻撃を仕掛けてくる頃合いだと予想していたので、少し早く強化魔法を発動したのだ。
彼は肩をすくめながら「最初から物取りのくせに下手くそな芝居をする大根役者め」と呆れ顔になった。
そして、腰を低く落として拳法のポーズを取る。
これは、彼が必殺魔法を発動する時の体勢だ。
剣士は一瞬たじろいだが、気を取り直して剣を高く振りかざし、「やっちまえ!」と号令をかける。
それを合図に、前進していた三人が武器を堅く握りしめ、横一列に一丸となって、10メートルほど離れたクラウスめがけ走り寄る。
素手のクラウス、絶体絶命か!?




