第228話 白(ブラン)ファミーユの真実
ジャクリーヌが、頭の中で男を問い詰める。
『礼を言うのなら、我々の味方のはず。貴様は、味方なのか?』
『味方ではない』
『なら、馬鹿なことを言うな。白ファミーユは、魔王側に寝返って、我々の討伐を妨害してきた。貴様が我々の敵なら、白ファミーユは貴様の味方。だから、礼を言われる筋合いはない』
『ほほう。寝返ったと、本当に信じていたのか』
『どういう意味だ!? それより、語りかける貴様は何者だ!? そこのドラゴンか!?』
『左様。少し前までは、オーギュスト=エマニュエル・ドゥ・ガロアを通じて、お前らを監視していたがな』
『何だと!? ガロアはどこにいる!?』
『用済みなので、消えてもらった。ブルバキもな。これで白ファミーユは、全員討伐されたことになる』
『彼らは寝返ったのではないのか!? どういうことだ!? 説明しろ!』
『疑わないところを見ると、完全に罠に掛かったな。愉快愉快。結論から言うと、お前らに昔の仲間と同士討ちをさせるため、白ファミーユに術を掛けただけ。四年前のように、また貴様らと白ファミーユとで討伐隊を編成されると困るからな』
『何だと!?』
『金に困っていた奴らは、フランク帝国皇帝から無理に魔王討伐を請け負ったが、お前ともう組みたくないと思っていた。それでは当然できるはずがなく、ローテンシュタイン帝国のトールという少年をそそのかして、魔王討伐のために招聘した。つまり、丸投げして、金をせしめようとした。絶対にやらせるため、違約金をちらつかせただろう? そこで、そいつらに術を掛けて、魔王を守る役を担ってもらったのだ』
『つまり、今まで倒してきた相手は――』
『そうよ。味方よ。最初から、寝返ってなどいない。そう思わせただけ。奴らもあの世で悔しがっているだろうよ』
『ちょっと待て! あの世とは、どういうことだ!?』
『奴らに術を掛けたとき、戦いに失敗したら消える、という条件をつけた。だから、必死になって戦っただろう?』
『!!』
『さあ、取り返しが付かない自分の過ちに後悔せよ、同士討ちに勝利した者達よ』
『……』
放心状態になったジャクリーヌは、黄金の床に両膝を突く。
右手から剣が滑り落ち、背中は丸まり、両手は床に。
黄金をバックに、ぼんやりと映る上半身が、視界を埋める。
彼女は耳鳴りに襲われ、心にぽっかりと大きな穴が開いた。
眼瞼を伝う涙は、たちまち大粒になって止め処なくこぼれ落ち、床に映る自分の顔を濡らしていく。
そうか。
彼らは味方だったのか。
魔王に利用されただけなのだ。
フランソアも、エミールも、マリアンヌも。
自分を『姉さん』と呼んで頼りにしてくれていたクロエ、カトリーヌ、セシル、マノン、ジャックも。自分にだけ懐いていた、気難しいクリスティーヌも。
敵に寝返ったと思ってしまい、味方全員をこの世から消してしまった。
四年前は、五人を失った。
今度は、九人を失った。
しかも、自分達が手に掛けたのだ。




