第227話 白いドラゴン
玉座の方向から、白い何かが飛来する。
勢いよく羽ばたくそれは、白い鳥に見えた。
だが、近づくにつれ、その体は大きくなり、羽がコウモリに似ていることがわかった。
角がある。鋭角な目が見える。牙がある。
純白のドラゴンだ。
ジャクリーヌは、魔王の気配を近くに感じて、鳥肌が立った。
アンリ、マルセル、オデットは、全身の産毛が逆立つような寒気に襲われた。
ジャック、ルイーズ、ブリジットは、ガタガタと震えて、床に尻が張り付いたまま立つことができない。
七人は、四年前の気配を、今はっきりと思い出したのだ。
ドラゴンは、ジャクリーヌ達の20メートル手前に着地した。
背丈は、5メートルは超えるだろう。
足の爪を立ててブレーキにするも、床が滑るので、羽ばたいて逆方向の風を作り、3回跳ねて止まった。
トールは、右手に契約の指輪をはめていることを再度確認する。これで、攻撃力アップはOKだ。
そして、床に置いていた長剣の柄をガシッと握って、ジャクリーヌの右横へ移動する。
「マスター。あれが魔王ですか?」
ジャクリーヌは、視線をドラゴンへ向けたまま、首を左右に振る。
「四年前に見た魔王の姿と違う。だが、気配を近くに感じる。もしかすると、あのドラゴンに姿を変えているのかも知れない」
彼は、黒猫マックスが「超弩級の化け物」と予知していたことを思い出した。
超弩級にしては小さすぎる。
マスターの言うとおり、姿を変えているのも、ありだろう。
部屋の揺れが徐々に収まってきた。
すると、全員の頭の中に壮年の男の声が、力強く鳴り響いた。
『白ファミーユの討伐、ご苦労』
フランソアとは似ても似つかぬ声質。
ジャクリーヌ達が四年前に聞いた魔王の声でもない。
だが、そいつの正体が何者かよりも、誰もが訝ったことがある。
白ファミーユの討伐。
それは、どういう意味なのだろう?




