第225話 決死の肉弾戦
1分後、トールのアンクレットの効果は消えた。
加速が止まった彼は、ボクシングの構えで次のチャンスを窺った。
顔が腫れて唇が切れたフランソアが、髪を振り乱し、大きくため息をつく。
「フー……。これは凄い。ジャクリーヌより強い勇者を初めて見た。1分間も手出しができないなんて、生まれて初めてだな。……だが、反撃はこれからだ」
彼がそう宣言すると、急にトールの視界から姿を消した。
トールは、消えるイコール背後に回った、と直感が働いた。
そして、素速く後ろを振り返り、足を一歩後ろに引く。
案の定、背後にはフランソアがいて、右手を大きく振りかぶっている。
トールは、素速く腰を落として、相手の懐に飛び込み、みぞおちに重い一発をお見舞いした。
肉同士がぶつかる鈍い音を立てて、拳がフランソアに食い込む。
くの字に折れるフランソアだが、足を踏ん張り、倒れない。
それが第2ラウンドのゴングとなり、トールの第2のラッシュが始まった。
マシンガンの掃射のようなパンチの連続。
攻撃に耐えることは、防御ではない。
死を待つのみだ。
攻撃こそ最大の防御とは、相手から反撃の機会を奪うこと。
隙を0.1秒も与えてはいけない。
フランソアの繰り出すストレートやジャブは、ことごとくトールに交わされる。
なぜなら、拳を繰り出しても、すでにそこには彼の残像しかないからだ。
交わされて、つんのめるフランソアの体に、トールが繰り出す1秒間に10連発の拳が炸裂する。
白い制服は、拳の乱打を浴びてしわくちゃになり、ついには穴が開き、金ボタンのいくつかは飛んでいった。
しかし、フランソアは倒れない。
だからといって、大きく振りかぶっては、反撃のチャンスを与えることになる。
なので、ひたすら連打を繰り返す。
正に体力勝負。
トールの体力の消耗が激しくなったが、フランソアはそれを遙かに超えていた。
ただ、体力がトールを上回るので、耐えられたのだ。
撃たれっぱなしのフランソアは、動きが緩慢になってきた。
作戦か?
大技を繰り出す隙を窺っているのか?
ここでトールは、あえて、伸るか反るかの勝負に挑んだ。




