第223話 謁見の間
ヒルデガルトから鍵を受け取ったジャクリーヌは、それを扉の鍵穴に差し込んだ。
そして、ゆっくりと鍵を時計回りに回す。
扉が、カチャッと音を立てた。
ドアノブに手を掛けて、同じく時計回りに回す。
何の抵抗もなく、ゆっくりと回る。
一瞬、彼女の頭の中に四年前の出来事がよぎった。
そう。四年前も、こうやって貧相な扉の鍵を開けた。
そして、扉をくぐったら、魔王の豪華絢爛な客間だった。
今回もそうだろうか?
彼女は、思い切って扉を押した。
すると、目映い光が飛び出してきた。
扉の向こうは、巨大な黄金の部屋だった。
高さは25メートル以上、幅と奥行きは50メートル以上。
クロエ・ドゥ・ラプラスが幻影魔法で見せた黄金の部屋よりも、格段に大きい。
あれは、これを模したのだろう。
窓はなく、8つもある豪華なシャンデリアが室内を煌々と照らしている。
おそらく、2メートル以上の大きさはあると思われるシャンデリアも、あの高さに吊されると、おもちゃの飾りに見える。
周囲の壁は鏡のように磨かれた黄金でできていて、壁の周囲に配置された調度品も彫刻も、全て黄金だ。
さらに、床までも黄金。
これが謁見の間。
スケールの大きさに度肝を抜かれる一行は、さらに異様なものを見つける。
正面に見える黄金の玉座。
これが、天井まで半分の高さなのだ。
つまり、13メートルくらいある。
あそこに座るのが魔王なら、その背丈がいかに巨大かが想像できる。
立ち上がったら、天井に頭が届くかもしれない。
トールは、修学旅行で見た奈良の大仏を思い出し、大仏級の巨大な魔王を想像した。
マリー=ルイーゼとシャルロッテは、自分達がガリバー旅行記のこびとになったことを想像した。
ジャクリーヌ、アンリ、マルセル、オデットは、魔王の気配を感じて、ぞわっと身震いした。
ジャック、ルイーズ、ブリジットは、その気配に、わなわなと震えている。
彼ら七人が四年前に感じたあの気配が、今この部屋にある。
しかし、姿は見えない。
正に、黒猫マックスの予知通りだったのだ。
一同が黄金と巨大な部屋に目を奪われながら、ゆっくりと部屋の奥へと歩み始めると、遠くから「やあ。こちらに来たまえ」と声がした。
彼らは、ギョッとして視線を声の方へ向ける。
そこには、誰もがすっかり眼中になかったのであるが、玉座の前に黄金の小さなテーブルが。
玉座の大きさと比べてしまうと、食玩のおまけ以下の大きさだ。
そこに座っている白い服の男が手を上げている。
40メートル以上先なので顔はよくわからないが、声からフランソアであることは明らかだ。
白猫ブルバキと白フクロウのガロアがいるはずだが、小さすぎて見えない。
ジャクリーヌは、「貴様こそ、こちらに来い!」と大声で返事をした。
その言葉が、部屋中にこだまする。
こだまが消える頃、フランソアは、ゆっくり立ち上がって歩み寄ってきた。




