第219話 コンクリートを引き裂く剣圧
ここでトールは、妙案を思いつき、「マスター、下がってください」と言って長剣を大きく振りかぶった。
エミールは、余裕で笑顔を見せていたものの、トールの自信満々の顔を見て、内心は少し不安になっていた。
なので、笑いが少しずつ消え、頬の筋肉がこわばっていく。
「おや? 得意の雷撃魔法を使わないようだが」
「使ってほしいですか?」
「もちろんだが、その構えは、雷撃魔法ではないね。使わないのかい?」
「使う必要ないですね。それを超える魔法を使うので」
「ほほう。まだ必殺の魔法を持っているとでも?」
「当然。いつ使うって、使うなら、今でしょ」
トールは、そのまま全力で気合いを入れて、急速に長剣へ魔力を注ぎ込む。
魔力に満ちあふれる長剣は、ボウッと炎に包まれた。
彼のこめかみと首筋には血管が浮き上がり、全身が一層白く光り輝く。
エミールは、ハッとして、瞬時に20メートル後へ跳んだ。
「それは何だ!?」
「どんな魔法でもコピーするって言うから見せてあげるんですよ。そんな後ろに逃げたら、コピーできないでしょう?」
「馬鹿を言え! 誰が直撃を食らうか!」
「いっけええええええええええええええええええええええええええええええっ!!!」
トールのかけ声が廊下にこだまする中、彼は大きく振りかぶった長剣を、ありったけの力を込めて、ギュンと素速く振り下ろした。
到底、人間業とは思えない、目にもとまらぬ速さ。
先ほど鋼鉄を斬り捨てた強靱な長剣が、彼の振り下ろす力によって、空中で弓のようにしなった。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!
長剣が斬る空気の、急激な圧力変化による爆発音。
想像を超える剣圧が、衝撃波を発生させる。
その衝撃波は、地響きを立ててコンクリートの床を引き裂く。
そして、飢えた獣のごとく、一直線にエミールへ襲いかかる。
エミールは、初めて見るトールの魔法に驚愕し、条件反射のように両方の手のひらを前に出して、金色に光り輝く魔方陣を出現させた。
瞬時に発動された防御魔法は、衝撃波を果敢に受け止めるはずだった。
しかし、そんな小手先の防御など、トールの剣圧を前に一切通用しない。
衝撃波は、コンクリートを割り、破片を吹き上げながら、エミールを小石のように吹き飛ばす。
その時、彼の背後の扉がひとりでに閉まった。
だが、その防御も全くの無駄。
衝撃波はエミールを押したまま、大音響を残して扉をも突き破って行った。




