第218話 魔法のコピーアンドペースト
とその時、エミールの左肩にボウッと白い煙が立ったかと思うと、白いフクロウが現れた。
『それは人間の順番。ファミーユの序列としては、三位の俺の下。序列四位だ』
全員の頭の中に、低い男の声が鳴り響いた。
もちろん、白フクロウのガロアの声である。
エミールが頭の中で反論する。
『フランソア未公認の序列など、意味がない』
『何だと!? 貴様はコピーしか能がないくせに、よく二位を主張していられるな』
『それより、この謁見の間の鍵を、例の水槽に隠せ』
『ちっ。フクロウ使いが荒いぜ。そんなものを、うかうか持ち歩くな』
白フクロウのガロアは、エミールが内ポケットから取り出した大きな銀色の鍵を足でつかむと、鍵ごとフッと消えた。
軍用ゴーグルを着用したヒルデガルトは、その鍵の形を見逃さなかった。
ジャクリーヌは、剣で牛の構えを取り、鋭い眼光と切っ先をエミールの顔へ向ける。
「無駄な抵抗はやめろ。大人しく引き下がれ。そして、あたし達の後ろの扉を開けろ」
すると、エミールは、両手をひらひらと振った。
「姉さん。その物騒な構えはやめましょう。僕の技をご存じですよね?」
「当然。人の魔法をそっくりコピーするんだろ? まだその技一本で食っているんだ」
「そうですよ。いけないですか? 四年前の姉さんは、この技を褒めてくれたのに。急に、言い方まで冷たくなりましたね」
「敵に易々と寝返る奴が何を言う。それより、謁見の間の鍵って何だ? なぜそんなものを持っている?」
「謁見の間というくらいですから、魔王様の部屋ですよ。僕はその鍵当番。まさか、こんなに早く姉さん達が来ると思いませんでしたから、うっかり持ち歩いてしまいましたが」
「と言うことは、魔王はそこにいる?」
「ええ。フランソアとお茶を飲んでいるはずです」
「のんきだな」
「当然です。姉さん達は、僕に負けるのですから――」
エミールはそう言うと、右手の中からジャクリーヌが持つ剣と瓜二つな剣を出現させた。
そして、彼女とそっくりな剣の構えを取る。
0.5秒の間合いの後――。
「「稲妻!!」」
二人は、ほぼ同時に魔法名を叫ぶ。
しかし、紙一重、エミールが早かった。
ジャクリーヌの剣は、稲妻の直撃を受けて後方に吹き飛び、彼女は痺れる手を振った。
すかさず、マリー=ルイーゼが炎を纏った剣を振り上げて、エミールに飛びかかった。
しかし、彼は瞬時にジャクリーヌの剣を引っ込め、マリー=ルイーゼの剣とそっくりの剣を右手から出現させた。
マリー=ルイーゼが振り下ろした剣は、エミールの剣によって、遠くへ弾き飛ばされた。
次に飛びかかったシャルロッテは、渾身の力を込めて日本刀を振り下ろす。
しかし、彼は炎を纏った剣を瞬時に日本刀と交換し、これを防御。
シャルロッテの日本刀も同じ運命をたどり、床に金属音を立てて転がった。
今度は、イヴォンヌが魔法の構えを取った。
だが、まるで鏡のように、エミールもイヴォンヌと同じ構えを取る。
「「巨大なつらら!」」
二人は、ほぼ同時に魔法名を叫ぶ。
これも、紙一重、エミールが早かった。
イヴォンヌは、つららも魔方陣も粉々に破壊される。
そして、後方へ飛ばされて、臀部をしこたま床に叩きつけた。
「無駄無駄」
エミールは、顔の前で、立てた人差し指をメトロノームのように揺らす。
「君達の魔法は、すべてコピーさせてもらった。それをペーストするだけで勝てるんだよ。さあ、どうする?」




