第215話 扉の手品
ジャン=ジャックは、ルテティアとヴェルサイユの魔法組合から応援に来ていたメンバーの中から、四十人を選抜した。
彼らは、回復用に水薬が配給され、さっそく町へ向かった。
応援組の残りを数えたら、九人だった。
見ると、すべてが老人だ。
このメンバーで、本丸を攻める討伐隊のしんがりを守るには心許ないが、今はやむを得ない。
彼らの移動中に、ヒルデガルトの一団が帰還した。
マリー=ルイーゼとシャルロッテは、それぞれ、魔術師のルイーズ=アンジェリークとシルヴェーヌに支えられて、フラフラと足下がおぼつかない様子である。
ディアヌとモニクは、ルイーズ=アンジェリークとシルヴェーヌに事情を説明し、コゼットとナディアを連れて六人でジャン=ジャック達の後を追った。
もちろん、彼女らにも水薬が配給された。
敵を殲滅したら、彼らは戻ってくる約束だった。
しかし、いつになるのか、当てにはできない。
黒猫マックスは、町へは戻らず、トールと一緒に行動することになった。
トールの頭の中では、黒猫マックスは、白猫ブルバキのライバルだった。
どちらも、行動の先を読む、未来を予知する能力がある。
きっと、良い勝負になる、と彼は思った。
ジャクリーヌは、ジャン=ジャックが選抜せずに残した九人の応援組に、マグマの上に渡した橋を取り壊すように伝えた。
アンリは、いぶかしがる顔を彼女へ向ける。
「マスター。せっかくの橋を壊すんですかい?」
彼女は、その問いかけを無視して、ヒルデガルトに指示をする。
「あっちが終わった頃に、扉を閉めてくれ」
ヒルデガルトは、無言で頷いて、魔界への扉の右にある装置の前でスタンバイした。
一人納得いかないアンリは、ジャクリーヌに食い下がる。
「マスター。教えてくださいよ。なんで、向こうから開けてくれた扉をわざわざ閉じるんでえ?」
彼女は、「熱いだろ?」と、とぼけてみせて、ニヤニヤする。
「そりゃ熱いですけど、涼しい風も入って来やすから、気にはなりませんぜ」
「いや、それでも閉じないといけないんだ」
彼は、はたと膝を打って、自分なりの推理を披露する。
「わかった! この扉が偽物だった! 大当たりでしょう!?」
「いや、大外れ。これは本物さ」
「まさか、嘘でしょう!?」
「まあ、見てなって。これは手品だから」
彼女はそう言いながら、橋が外されたことを確認した。
そして、ヒルデガルトに向かって、右手で合図を送った。




