第214話 苦渋の決断
「敵の数は、どれくらいいる?」
「300は、いるわね」
ジャクリーヌは、フランソアが「今から、もの凄い数の部下をここに呼ぶ」と言っていたことを思いだした。
てっきり、そいつらは、マグマの上に橋を架ける前に殲滅したと思っていたのだが、違っていたようだ。
「町の住人は?」
「集会場へ避難したわよ。そこを、うちの魔法組合の十五人で結界を張って守っているの」
「十五人で!?」
「そうよ。あんたじゃあるまいし、中が見えないような超凄い結界なんか、一人で張れないわよ。あの広い場所を、ぐるっと取り囲んで、やっとの思いで守ってるんだから」
「敵と戦っているのは?」
「うちの残りと、ガルネの弱小魔法組合の寄せ集めよ。合計三十人程度いるけど、うちがA級ランク以外は、全員B級ランク以下」
「持ちこたえられないのか?」
「無理ね。だから、貸してほしいの」
「貸す? 誰を?」
「うちのA級ランク六人全員。貸してと言うか、返してほしいの。彼女達を攻撃に向かわせるから」
「うーん……」
「それだけじゃないわよ。あんたんとこの、S級ランクのアンリ、マルセル、オデットを貸して」
「それは無理だ! 彼らをそっちに差し向けたら、魔王に勝てない!」
「じゃあ、同じS級ランクでも、彼らより劣るジャック、ルイーズ、ブリジットを貸して! うちのA級ランク六人が加勢しても、300相手じゃ無理! 今、バリケードもどきを築いて守っているけど、突破されるのは時間の問題よ!」
「ジャック達も貸せない!」
「なんであんたは、そうやって最強の駒を独占すんのよ!」
ジャクリーヌは、ハッとした。
その言葉に頭を叩かれた気がしたのだ。
S級ランク以上という最強の駒の独占。
そうだ。
もしかしたら、勝つためと称して、本当は臆病な自分を守りたいのか?
しかし、九人を応援に向かわせることには、同意しがたい。
S級ランク以上の戦力が半減するからだ。
かといって、太陽は、まだ高い。
親衛隊や騎兵が駆けつけるには、まだまだ時間が掛かる。
彼らは重装備なので、例の時空を超える横穴を通れず、街道を走るしかないからだ。
このままでは、魔王を倒す前に、町が攻め落とされる。
この八方塞がりの状況に、彼女は唇を噛み、すぐそばにずらしてあった墓石を割れんばかりに殴打した。
「畜生! 仕方ない! ディアヌ達六人は返す! さらに、こっちの応援から四十人を当てる! ジャック、ルイーズ、ブリジット達は諦めてくれ!」
「いいわよ」
ジャン=ジャックは、渋々承諾した。
増援のため、六人プラス四十人を町に送り込む。
これで、敵の本丸を攻めるのは、十九人プラス約五十人から、十三人プラス約十人に激減する。
戦力の分散。
敵がガルネの町を攻めたのは、これが目的だ。
討伐隊は、敵の策略に、見事に嵌まったのである。




