第210話 鋼鉄の人形を斬る
ジャクリーヌ達は十九人中、二人は負傷、三人は治療中。
動けるのは十四人。
そこへ五十体以上の赤いオートマタが襲いかかる。
一人当たり三体あるいは四体倒す計算だ。
ジャクリーヌ達は、戦いの開始早々、重大な問題に直面した。
オートマタの全身が鋼鉄でできているらしく、斬りつけた剣は、カーンと音を立てて跳ね返る。
へこむことすらしない。
唯一、トールの長剣だけが、この鋼鉄を斬ることができた。
魔法で応戦も考えたが、相手が素速いため、構える時間がない。
ジャクリーヌは、先ほどのジジの例を思い出して、試しにオートマタの首を刎ねてみた。
すると、案の定、簡単に首が飛ぶ。
首を失ったオートマタは、ガクッと膝を折って倒れ込んだ。
オートマタのウイークポイントが見つかった。
しかし、敵も然る者、なかなか首を斬らせてくれない。
そこを狙うことにこだわると、剣の位置が上になり、今度は自分のボディの守りがおろそかになる。
オートマタは、隙を見せたところを狙うようにプログラムされているらしく、腹部ががら空きになると、そこに剣を向けてきた。
さらに、計算違いがあった。
イヴォンヌとイゾルデは、そもそも専用の刀剣がない。
それで、イヴォンヌはシャルロッテの日本刀を、イゾルデはマリー=ルイーゼの燃える剣を借用したが、主が違うためか、刀剣が持ち主の思うように動かないのだ。
二人とも、敵の剣の猛攻を、無我夢中で刀剣を振り回して防ぐのみ。
こうなると、敵をまともに倒せるのは、トールとジャクリーヌしかいなくなった。
それ以外のメンバーは、オートマタの剣の勢いに押されている。
なので、包囲網がジワジワと狭まっていく。
トールは、仲間が一方的に押されている現状を打破するため、自分の動きを加速することにした。
彼は頭の中で、長剣へ語りかける。
『一気に加速して敵を斬るから、力を貸して! できるよね!?』
『御意』
その時、柄を握る彼の手に、ジーンと剣の気迫のようなものが伝わってきた。
全身に溢れるほど、力が漲ってくる。
彼は上段の構えになって、オートマタを連続して斬ることをイメージし、雄叫びを上げた。
「うおおおおおおおおおおっ!!」
目にもとまらぬ速さで振り下ろされる長剣。
その軌跡が描く、罰点と十字。
一画で一体が、長剣に捕らえられる。
確実に。時を刻むように。
たちまち、いびつな楕円形の周上に、赤いオートマタ達は残骸をさらしていく。
鋼鉄の塊を、鉛より柔らかい金属であるかのように斬る長剣は、全く刃こぼれがしない。
その驚異的な耐久力。
間断なく続いた剣戟も、トールが最後のオートマタを脳天から一刀両断したことで、終わりを告げた。




