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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第一章 異世界転生編

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第21話 少年少女の驚異の魔力値

 猫族のカッツェンブローダ村を出発した2台の辻馬車は、何処までも続く牧草地帯の一本道をひた走りに走った。


 木々は、大地の神が植え忘れでもしたのか、一本も生えていない。

 まるで草色のカーペットが起伏のない大地に敷き詰められて、見渡す限り目印のないこの一帯に、旅人が方向を間違わないよう地の果てまでの一筋の(みち)をつけたかのようだ。


 村にいたときは晴天だったが、小一時間経過したところで、急に薄雲が広がった。

 それは、抜けるような青空を完全に隠し、炎天を忘れさせてくれる清涼の風を生んだ。


 薄雲は、地平線付近で雨が降りそうなほど暗いが、あの距離では、こちらの乾いた地面を濡らすのはまだまだ先であろう。

 しかし、カーテンを閉めるかのようにサーッと天空に雲が広がったのはなぜか?


 これは、何か不吉な出来事の予兆なのだろうか?


 クラウスの乗った馬車は先頭の馬車で、彼の右隣にメビウスが、向かいにはハヤテと彼の膝の上で丸くなっているニャン太郎、斜め向かいはカリンが座っていた。

 もちろん、ハヤテとカリンは眠ったままで、頭も体も馬車の揺れに同期するかのように揺れている。


 クラウスは「この揺れでも起きないのは、相当深い眠りについている。呪いをかけられたのでしょうか?」とつぶやいて、右側のメビウスを一瞥した。

 しかし、その声は蹄と車輪の騒音にかき消されて、同乗者の耳には届かなかったようである。


 クラウスは、話し相手が窓の外を向いたままなので、自分もまた窓の外へ視線を移した。

 しかし、いつ眺めても、同じ所をぐるぐる回っているのかと錯覚するほど、変化のない光景しか目に飛び込んでこない。


 人は、常に変化を求める生き物なのだ。

 故に、変化のない光景に耐えられなくなっても、罪はない。


 かといって、向かいに座っている少年少女は『どこからどうやって来たのか』という質問に対して、好奇心を大いに満たしてくれる答えを返してくれない。

 話題は問わないから、誰か、何か話をしてほしい。

 単に聞き手になってくれてもいいから、相手がほしい。


 彼は正にそういう気分だったのだ。


 そこで、退屈な空気に浸っているストレスの逃げ道を、もう一度メビウスへ求めた。

「ねえ、メビウスさん」


 聞こえていないらしい。

「メビウスさん!」


 メビウスは、窓に額の跡を残していて、今起きたという顔をしながらクラウスの方を向く。

「なんだね、クラウスくん?」

「本当に、皇帝陛下に謁見させるのですか?」


 メビウスはくしゃくしゃの顔をクラウスに向けて、「ハハハ」と笑って右手で目を覆い、首をゆっくり左右に振る。

「させるわけないだろう」

「やっぱり、そうですよね?」


 クラウスは、眉を八の字にして苦笑する。

 メビウスは、右手の指を少し開いて、その隙間からクラウスをのぞき見た。

「当たり前じゃないか。あの子らの魔力の測定数値を見せたら、誰でも卒倒するよ」

「確かに。潜在能力は帝国中でピカイチです」


 クラウスは、目の前にいる少年少女の魔力の潜在能力が高いことに対して、まるで自分のことのように鼻が高くなっていた。


「ありゃあ、化け物扱いされる。だから、このことは隠さなければいけない。最初は貴族達の養子にしようと考えたが、人前に出ると危ない。もしも暴君に見つかったなら、恐怖のあまり、彼らを殺しかねないからな」

「ええっ!? まさか、あの皇帝陛下が暴君なのですか!?」


「早合点せんでもいい。だとしたらという、あくまでもたとえ話だ。もちろん、今の皇帝陛下は、暴君ではない」

「でも、化け物っていう表現、的を射てますよ。少年の魔力を水晶玉で測定した結果の数値が、宮廷お抱えの魔法使いと比べて、最大容量が25倍、最大強度が30倍でしたから」


 メビウスは、右手首から上をくるくる回して、指を上にポワンと開く仕草をする。

「あれは、我々の頭がおかしくなったかと思うくらい、とんでもない数値だよ。測定数値から本当の実力を計るには、その数値を二乗するから、宮廷お抱えの魔法使いと比べて、少年は実際の魔力最大容量が625倍、最大強度が900倍」

「つまり、これは一人で軍隊一個大隊、ってやつですね」


「そうとも。625倍の魔力をため込み、増幅して900倍でぶつけてくる。正に一騎当千」

「ことわざ通りの数値ですね」


「今の皇帝陛下をお守りする近衛兵なんか、その10分の1の一個中隊もいないから、束になって襲いかかっても、デコピンで吹き飛ぶ」

「ああ、わかりますよ、そのたとえ」


「だから、暴君なら殺しかねんのだよ」

「いや、殺せないでしょう、少年が本気出したら」


「そういえば、この少女も凄い魔力だ。他の三人の少女も大の大人の魔法使いと比べて魔力が上回るが、彼女らよりも飛び抜けている」

「ええ。知力は他の二人よりえらく低いですが、魔力となると、その反動と言っていいくらい半端ない数値です。水晶玉での測定数値は、最大容量は10倍、最大強度は18倍。つまり、この少女の実際の魔力最大容量は、宮廷お抱えの魔法使いと比べて100倍、最大強度は324倍」


 メビウスは当然数値を知っているのだが、改めて目を丸くする。

「こんな華奢でお姫様見たいに可愛い女の子が、魔法使いの100人分の魔力をため込み、324倍の強度に増幅してぶつけてくるのだからな」

「もう笑うしかないですね」


 その言葉通り、二人はカラカラと笑った。


「あの猫族の言うとおり、『神に遣わされた子』だな。恐るべき子供達だよ」

「ほんとですよ。……そうそう、話は変わりますが、メビウスさん。知っていました? あの黒猫がしゃべれることを」


「え?」

「ほら、ああやって、寝たふりして耳をクイクイッと動かして、こちらの様子をうかがっている。言葉を聞き取ろうとしているのですよ。だけど、彼は僕達の言葉はわからない。逆に、僕らは彼の言葉がわからない」


「知らなんだ。なぜわかった?」

「実は、男の子に小声で話しかけるところを聞いてしまったのです。それに、何かとてつもない魔力を感じるのです。おそらく、人が化けているのではないと思うのですが、猫の中でも魔力が異常に高い。あの水晶玉は猫に使えないので数値は不明ですが」


 メビウスは、それまで少年に懐いている子猫程度にしか思っていなかったのだが、急にその猫を見る目が変わってしまった。


「ほおぉ」

「どうします? このままにしておきます?」


「どういうことかね?」

「ローテンシュタイン語を教えるかどうか――」


 とその時、彼らの乗っている馬車を引く馬がいななき、突然、馬車が停車した。


 走っていた馬車が急停車したため、メビウスとクラウスは背もたれにしこたま背中を打ち、ハヤテと黒猫とカリンは、クラウスとメビウスの膝に飛び込んだ。


 いったい、馬車に何が起きたのだろう?


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