第209話 赤いオートマタの群れ
ジジは小さな親指で、器用に拳銃の撃鉄を起こした。
そして、ジャクリーヌに二挺の銃口を向け、引き金を引く。
怒りに燃えるジャクリーヌだが、冷静に相手の動きを見て、刀身を銃口に向けて盾とした。
そして、発射された2つの弾丸を弾き飛ばす。
彼女は、それまでのジジの動きを観察して、気づいたことがある。
短い親指だから、拳銃の撃鉄を起こすのに時間が掛かるのだ。
つまり、そこに隙ができる。
ジジが撃鉄に親指を掛けた。
その瞬間、ジャクリーヌは一気に踏み込み、間合いを詰めた。
柄を握り直さず、手首の向きを変えるだけで、剣の刃先を相手の首に向ける。
そして、剣を素速く振る。
首を刎ねた手応えが、柄を通して彼女の手に伝わった。
それは、肉よりも固いものを斬った衝撃。
切断されたジジの頭部が宙を舞い、ゴトンと音を立てて地面に転がる。
重量感のある頭部。
血しぶきを上げない首。
ジャクリーヌは、ユラユラと揺れる首の切断面から、機械仕掛けの部品のようなものを見た。
しかし、詳しく調べている暇はない。
赤い人影が、重量感のある足音を立てながら、目前に迫ってきたのだ。
「誰でもいい! 運ぶのを手伝え!」
ジャクリーヌはそう叫んで、マリー=ルイーゼを抱えて後退する。
トールはシャルロッテを抱え、アンリは燃える剣と日本刀を抱えて後退した。
赤い人影は、討伐隊の列を楕円形に取り囲む。
数にして、ざっと五十体以上。
全員が白い歯をむき出して笑っているも、髪はおろか、目も鼻も耳もない。
上から下まで真っ赤に塗られた、歯だけの『のっぺらぼう』だ。
奴らは剣を構えているが、取り囲まれている者が剣を向けているからか、ボスの指示を待っているのか、それ以上は踏み込んでこなかった。
包囲の中心に運ばれたマリー=ルイーゼとシャルロッテは、意識がなかった。
被弾したのは魔弾だったようで、腹部の弾丸痕から紫色の邪気が吹き出している。
二人の治療は、ヒルデガルトと、回復魔法専門の魔術師ルイーズ=アンジェリークとシルヴェーヌが担当した。
赤い人影とジャクリーヌ達が対峙する中、扉の向こうから、高笑いする女が現れた。
八頭身のモデルのような体型を白いドレスに包む女だ。
金髪灼眼。彫りが深く、均整がとれた顔立ち。
誰もが絶世の美人と称えるであろう。
だが、笑い方が下品。
女は、「オートマタのみなさん、ご苦労様」と、打って変わって上品な声を上げながら、ゆっくり歩み寄ってくる。
と突然、女は柳眉を逆立てて、走り寄ってきた。
そして、ジジの頭部を拾い上げ、強く胸に抱きしめる。
「おお……、なんて、かわいそうに……」
今度は、嗚咽しながら「かわいそうに」を繰り返し、その頭部に頬ずりをする。
ジャクリーヌは、女に向かって親しそうに声を掛ける。
「よう。マリアンヌ・ドゥ・フーリエ。そいつは、貴様のおもちゃか?」
すると、マリアンヌ・ドゥ・フーリエと呼ばれた女は、鬼のような形相になった。
「よくも私の可愛い子に手を掛けたわね! この子は、私の最高傑作だったのに!」
「実在する人間に似せて作るとは、趣味が悪いぞ」
「私の技術の高さを証明するには、この方法が一番なの。魔力を動力源とする作品で、ここまで精巧にできたのは、この子だけ」
「もしかして、この赤い奴らも貴様のおもちゃか? こっちは手抜きだな」
「急がされたからよ!」
「それにしても、気合い入れて、ずいぶんと量産したな」
「四年前の戦いで、全て破壊されたので、一から作り直したの。姉さんのせいよ。魔界の雑魚相手に、前線に立たされて、不慣れな戦いで全滅したのは」
「おいおい、雑魚相手に負けるくらいのおもちゃで、幹部相手に戦わせてほしかったとでも?」
「部下のせいにするなんて、最低のリーダー。地獄に落ちるがいいわ! やっておしまい!」
マリアンヌの号令で、赤いオートマタが一斉にジャクリーヌ達へ迫ってきた。




