第208話 謎の少女の凶行
ジャクリーヌが扉に向かって2、3歩進むと、突然、扉の向こうに小さな人影がひょっこりと現れた。
彼女は即座に立ち止まり、剣を構えて警戒する。
その小さな人影は、最初、こちらを見て躊躇している様子だった。
だが、意を決したらしく、ジャンプするように扉を越えて、パタパタと足音高く走り寄ってきた。
「助けて! 向こうに魔王がいるの! 親衛隊隊長が捕まったの!」
みんなは、その聞き覚えのある声に驚いた。
ジジ・モントルイユだ。
彼女は白いワンピースを着て、両手を後ろにしている。
縛られているのだろうか?
「あっ! トールお兄ちゃん! お願い、助けて! こっちに来て!」
ジャクリーヌの肩越しにトールの顔を見つけたジジは、そう叫んで立ち止まった。
二人の距離は10メートルほど。
ジジは両手を後ろにしたまま、バタバタと足踏みをする。
「ねえ、お願い! 早く!」
トールはジャクリーヌの左横を通ろうとすると、シャルロッテがトールの肩をつかんで、彼の前に出た。
「あんたは、上から見下ろして怖がらせるから、あたしに任せて」
ところが、ジャクリーヌは、そのシャルロッテを左手で制する。
「待て。様子がおかしい」
「どうして?」
「ここから90キロメートル離れたルテティアにいる二人が、なぜここに捕まっているんだ?」
「ジジちゃんは、あの穴をくぐってきたんじゃないの? そして、魔法か何かで捕まったとか? それに、親衛隊隊長はこちらへ移動中に捕まったんじゃないの?」
「いや、その可能性があるとしても、今は動くな」
ここで、マリー=ルイーゼがシャルロッテの肩をポンと叩く。
「じゃ、あたしが援護するから、二人で行こう」
「まだ動くな!」
「マスター。万一、魔物だとしても、この武器さえあれば大丈夫。それに、このままじゃ進展しないし。向こうにいるという魔王の様子も聞いてみないとね」
「わかった。なら、三人で行こう」
シャルロッテは、マリー=ルイーゼとジャクリーヌと一緒に、ジジの所へ近づいて行った。
そして、3メートルくらいの距離で立ち止まる。
「怖かったでしょう? さあ、こっちにいらっしゃい。みんなと――」
シャルロッテがそう言いかけたとき、ジジが後ろに回していた両手を前に出した。
その手の先で、キラリと金属製の何かが光った。
二挺の拳銃を握っている!
ジジの想定外の行動。
三人の全身に戦慄が走った。
彼女らは反射的に、携えていた刀剣を構えたが、時すでに遅し。
ジジは無慈悲を感じさせる抑揚で別れの言葉を述べる。
「永遠にさようなら」
両方の小さな指が、引き金を引く。
こだまする非情の銃声。
腹を抱えて崩れるように倒れるマリー=ルイーゼとシャルロッテ。
主の手から落下し、地面にカランと乾いた金属音を立てる刀剣。
二人は、少女の凶弾に倒れた。
とその時、扉から無数の赤い人影が雪崩れ込んできた。




