第206話 剣が敵を斬る
同時に出現した3本の刀剣。
マリー=ルイーゼは、刀身が燃える剣。
シャルロッテは、冷たく光る日本刀。
トールはもちろん、幅広で1メートル半もある長剣である。
彼のうっすらと炎を纏う長剣の刀身には、朱色で刻まれた護符の古代文字。
黄金の鍔の縁には、これも朱色で描かれた幾何学模様。
柄に朱色で浮き彫りされた、火炎を吐くドラゴンの彫刻。
三人はそれぞれの刀剣をガシッと握る。
すると、ポー武器店で受け取ったときと、全く違う感触に彼らは驚いた。
柄の部分からビリビリと何かが伝わってくる。
これは、激しい気迫なのか?
さらに、息づかいのようなものを感じる。
この剣は生きているのか?
武器を見つめる彼らの頭の中で、今度は、何者かの語りかける声が鳴り響いた。
『我は覚醒せり』
剣が、日本刀が、長剣が語りかけているのだ。
『汝を主と認める』
武器を握る彼らの手が、気負いと興奮で震えてくる。
『我を意のままに動かせ。百倍の力となろう』
三人は感動のあまり、全身が総毛立つような感覚に襲われた。
武器の言葉に奮い立った三人は、鬨の声を上げながら、巨体のミノタウロスへ突進した。
マリー=ルイーゼは剣を上段の構えで振りかぶって跳躍し、ミノタウロスの分厚い胸を左上から右下へ袈裟懸けに斬る。
その方向に斬ると思って腕を振っただけで、剣の方が自ら胸肉に食い込み、あばら骨をも折るように斬る、という感触だった。
シャルロッテも跳躍し、牛頭の怪物の胸を右上から左下、左上から右下の罰点印に斬る。
着地して、腹の真ん中を右から左に真一文字に深く切り裂く。
これも、自分が思い描いた刀の軌跡通りに、剣が斬りにいった、という感じだ。
目一杯に力を入れることなく、細腕の彼女でも巨体を深く切り裂くことができた。
トールも跳躍し、大きく振りかぶった長剣を魔獣の脳天に振り下ろす。
彼が描いた、真っ二つに切り裂くイメージ通り、長剣は巨体の肉塊を柔らかいものでも斬るように切り裂いた。
渾身の力など込めていなくても、一刀両断。
三人の同時攻撃は、数秒で片が付いた。
巨体のミノタウロスは、崩れるように倒れ、光の粒となって消滅した。
玉座の偽トールは、忌々しそうに歯ぎしりをして、また指を鳴らす。
今度は、ミノタウロスを超える背丈の、一つ目の巨人が三人現れた。
しかし、トール達の剣の前では、大きさで圧倒しようとも、敵ではない。
持ち主が大きな力を入れなくても、剣自らが力を加えて斬る。
偽トールは、巨人の背中を突き抜けて走る剣の軌跡と、バラバラに崩れ落ちる肉塊を後ろから見ることになる。
たちまち、三人の巨人は、ミノタウロスと同じ運命をたどった。
偽トールは、「ならば、これでどうだ!」と叫んで指を鳴らす。
次に現れたのは、火を吐く三匹の獅子だった。
これには、近づこうにも火を吐かれるので、うかつには斬りかかれない。
三人は、剣を構えて獅子と対峙し、隙を窺った。
とその時、ヒルデガルトがイヴォンヌの服を引っ張った。




