第204話 黄金の部屋と玉座に座る男
扉の中は、黄金色の部屋だった。
奥行きが40メートル、幅は25メートル、高さは10メートルくらいの、ちょっとした体育館規模。
通常の部屋としては考えられないほど広い。
壁という壁、天井までが黄金でできていて、壁のそばの調度品や彫刻までも黄金だ。
黄金でないのは床のみ。
濃い茶色のピカピカに磨かれた床は、走ったら滑りそうだ。
絢爛豪華な黄金のシャンデリアが2つ、天井から吊されていて、室内をキラキラと輝かせている。
ジャクリーヌ以外のメンバーは、周囲の見事な黄金に目を奪われた。
しかし、ジャクリーヌはそんな黄金には目もくれず、正面の奥にある玉座を睨んだ。
そして、フンと鼻を鳴らし、右横で黄金に目を奪われているマリー=ルイーゼに声を掛ける。
「趣味の悪い奴がいるもんだな。見てみな、あの玉座を」
マリー=ルイーゼは、ジャクリーヌの顎が指し示す先を見て、思わず目を見開いた。
玉座には、若い男が豪奢な青い服を着て腰掛けていた。
右足の先を左大腿部の上に載せて足を組む、いわゆる半跏趺坐の姿勢。
曲げた右膝頭の上に右肘をつき、右手で顎を支える。
彼の足下には、青いドレスを着た五人の女性が、彼を取り囲むようにして床に座る。
また、玉座の両脇の斜め後ろでは、頭を完全に覆った兜と鎧で身を固めた衛兵が一人ずつ、槍を持って仁王立ちしていた。
まさか、魔王の登場?
ジャクリーヌを除いた五人に緊張が走った。
しかし、ジャクリーヌだけは、薄ら笑いを浮かべる。
「あれは、魔王じゃない。強い魔力は感じるが、全然だ。遠くて顔がわからないな。近づいてみるか」
彼女は大胆にも、つかつかと歩み寄った。
しかし、部屋の半分を過ぎた辺りで、彼女は凍り付いたように立ち止まった。
後ろから近づいてきた五人も途中で立ちすくむ。
そこへ、後ろの扉からゾロゾロと人が入ってきた。
ジャクリーヌは不意に聞こえてきた足音に驚き、急いで振り返る。
「お、おい! トール! お前達まで! なぜここに来た!?」
「すみません。マスターが奥に入って戦闘中と聞いたので、僕の独断で全員を連れてきてしまいました」
先頭にいたトールが頭をかいた。
結局、待機していたはずのメンバーも含めて、十九人全員が黄金の部屋の中に入ってしまったのだ。
ジャクリーヌは、思わず苦笑しながらトール達を出迎える。
「まあ、来てしまったなら仕方がない。そうだ、トール。ここに来て、向こうの玉座にいる男の顔を見てみな」
トールは、ジャクリーヌが指さす先を見る。
目映い黄金の壁を背景にして、青い服を着た男が座っているのはわかるが、顔となると遠くてよくわからない。
彼は、小走りに男の方へ近づいて行く。
徐々に男の顔のパーツが識別できるようになってきた。
足下に侍らせている女どもの顔も見えてくる。
「えっ!?」
彼は息を飲み、見えない壁にぶち当たったかのように、よろめいた。
そして、金縛りに遭ったように立ちすくむ。
驚愕した彼の眼球は、こぼれ落ちる寸前になった。




