第201話 邪気を纏う魔弾
「弾丸摘出!」
ヒルデガルトが喜びの声を上げた。
「「こっちも!」」
ルイーズ=アンジェリークとシルヴェーヌも、嬉しそうに声を上げた。
ジャクリーヌ達は、トールの方へ駆け寄った。
ヒルデガルトら三人が、両手をかざしてトールの背中に柔らかな緑色の光を当てている。
ちょうど、背中の3つの弾丸痕が閉じようとしているところだった。
脇に転がっていた弾丸は、血のりが残り、弾頭が窪んでいた。
その弾丸は、濃い紫色の光を纏っている。
まだ邪気を漂わせているのだろう。
触れるだけで、体にとりつかれそうだ。
ジャクリーヌは、「触れたのか?」とヒルデガルト達に問うた。
彼女らは、一斉に首を振る。
「触らずに、魔法で摘出した。これは、防御魔法をも無効にするみたい」
ヒルデガルトが、ボソッと答えた。
マリー=ルイーゼが、ヒルデガルトの背後で心配そうにかがみ込む。
「命に別状はないよね?」
ヒルデガルトは、振り向かずに答える。
「大丈夫。体内に入った邪気も抜けた。後は弾の痕を塞げば終わり」
ジャクリーヌもかがみ込み、マリー=ルイーゼの肩にポンポンと手を置く。
「よくやった、マリー=ルイーゼ。お前の機転がなかったら、この子はあの世行きだったな」
「無我夢中でした……」
マリー=ルイーゼは、トールを見ながら涙目でつぶやいた。
ジャクリーヌは、さらにマリー=ルイーゼの肩を軽く叩いてねぎらい、立ち上がる。
「三人は、しばらくトールを診ていてくれ」
彼女はそう言いながら、魔界の奥の闇へ目をやった。
とその時、奥の方から、ドスンドスンと重量感のある複数の足音が聞こえてきた。
さらに、ザワザワと木々の葉がざわめくような音がする。
しかし、姿が見えない。
新たな何者かが、漆黒の闇の中で、悪魔の爪を研いでいるようだ。
アンリが少し腰が引けたような、弱々しい声を出す。
「マスター。白ファミーユが全力で阻止してくるぜ。どうしやす?」
ジャクリーヌは、腕組みをしながら、眉をしかめた顔をアンリに向ける。
「どうするもこうするもない。奴らを粉砕して突破するのみ」
「でもマスター、あの音は――」
アンリは、震える手で闇の向こうを指さした。
「ああ。あのドスドス歩き回っている奴だろう? あれは、土属性のマノン・ドゥ・ルベーグのゴーレムだろう。ザワザワと音を出しているのは、木属性のセシル・ドゥ・エルミートが作った迷宮のはずだ。でも、奴らの十八番だから、攻撃がわかりやすい」
「俺、あの迷宮が苦手なんすよ。あいつの魔法には、身震いする。よりによって、あの二人がタッグを組んで来られると――」
「何人束になってかかって来ようと、こっちは十九人いることを忘れるな! 残るは七人と二匹! 必ず勝てる! 勝負は『ここ』の強さで決まるからな!」
ジャクリーヌはそう言うと、アンリの左胸に拳をグイッと押し当てた。




