第198話 拳の一撃で正面突破
トールは、白いリボンを腰の周りに2回巻いてから、固く結んだ。
そうして、穴の縁から数メートル後退して、助走の距離を取る。
彼の横に並んだマリー=ルイーゼが、目見当でだが、思いっきり前の位置に移動した。
1メートル先はマグマに満ちた穴で、下手すると自分も危険。
だが、リボンの長さを考えると、彼女はその位置が良いと判断したのだ。
でも、不安は拭いきれない。
もし、壁が壊れずにトールが落下したら?
それは当然、すぐに彼を引っ張る。
もし、壁が壊れて彼が勢い余って向こうの奥へ転がって行ったら?
リボンはゴムではないから、引っ張られる自分が危ない。
仮に着地に成功しても、向こうに潜んでいた敵が彼を攻撃して、押し戻されたら?
そうしたら、……。
あらゆる事態を想定する彼女は、不安と緊張で、全身に震えが始まる。
それは増幅し、久しぶりに膝が笑った。
トールは中腰になり、拳を腰の辺りに降ろして固く握りしめる。
そして、憤怒の形相で、全身に力を込めた。
すると、彼の体の中心で、膨大な魔力が対流する。
全ての毛穴から蒸気が噴き出しそうなほど、全身が熱気を帯びる。
身に纏う光が、さらに輝きを増していく。
準備完了!
彼は発射された弾丸のようにダッシュし、穴の縁で勢いよくジャンプした。
「うおおおおおおおおおおっ!」
マグマの上で放物線を描く彼は、猛獣のような咆哮を上げながら、右手の拳を大きく後ろに振りかぶる。
そして、煙が渦巻く位置から壁までの距離に見当をつけ、渾身の力を拳の一点に集中。
その拳を、目にもとまらぬ速さで突き出した。
ドオオオオオン!!
バリバリバリバリ!!
衝突と当時に鳴り響く爆裂音。
硬いものが粉々に砕け、飛び散る音。
バラバラと落下する、渦巻く煙の絵の破片。
破片とともに落下するトールは、両膝をクッションに、しゃがむように着地する。
ぽっかりと口を開けた空虚の闇。
拳の一撃で、壁は崩れ去ったのだ。
彼は、両膝を伸ばして立ち上がった、その時――。
「突風!!!」
闇の向こうから魔法名を叫ぶ女の声が聞こえた。
同時に、轟音を伴って何かが迫ってくる。
この魔法は、クリスティーヌ・ドゥ・ラグランジュの必殺技だ。
たちまち、ドンという衝撃音を発して突風をまともに食らったトールは、後ろに飛ばされた。
後ろの壁は崩れ去っている。
大丈夫なのか!?




