第192話 親衛隊隊長と騎士長の来訪
トールが仕事を終えて、日が暮れた頃に魔法組合へ戻ってみると、カウンターでタバコをくわえて頭を抱えているジャクリーヌと、丸テーブルに座って沈んだ顔をしている仲間がいた。
人数を数えてみると、自分が最後の帰宅らしい。
「どうしたんですか?」
トールの問いに、ジャック、ルイーズ、ブリジットが口を揃えて答える。
「「ジジとマックスが消えた」」
「マジですか!?」
「「マジ」」
何の特徴もない三人が、イントネーションまでぴったり揃えて話すので、トールは吹き出しそうになった。
とその時、扉の前に馬が到着したような音がした。
一匹ではない。
次から次にやってくる。かなりの数だ。
近くにいたジャックが、様子を見るために重い扉を開けると、鎧を着て兜を脇に抱えた男女数人がドヤドヤと入ってきた。
ジャクリーヌは、胡散臭そうに扉の方をちらっと見たが、ギョッとして二度見した。
先頭に立っていた女性が金髪を掻き上げ、ジャクリーヌの姿を認めると、笑顔を見せる。
「久しぶりね、ジャクリーヌさん」
ジャクリーヌがくわえていたタバコの長い灰が、ポロリと落ちる。
「あたしら、何も悪いことしてないよ。リベルテ・デカルト親衛隊隊長さん」
すると、横にいた紅毛の女性が一歩前に出る。
「いえいえ、家捜しでは――」
「気になるなら、上から下まで見てもいいよ、ジゼル・ジョルダン騎士長さん」
「ですから、そうではなくて――」
「四年前の蒸し返しは、ゴメンだね。あの時、死んだ騎士のジャック・マルセイユさんには申し訳ないが」
とその時、紅毛の女性の足下からおっさんのような口調の声がした。
「おい、聞け、マスター。朗報だぞ。こいつら、援軍をよこすとよ」
「マックス! どこへ行っていたんだい!?」
トールは仰天して目を丸くするも、すぐに笑顔を取り戻した。
黒猫マックスは、トールの丸テーブルにヒョイと飛び乗った。
「おう、聞きたいか? 俺の血湧き肉躍る冒険譚を」
すると、リベルテが口を挟む。
「いいえ、それはこちらから話します」
「ちっ、なんでえ」
「後で、皇帝陛下からの正式な魔王討伐の依頼をジャクリーヌさんにしますからね。白ファミーユとの契約は破棄されましたので、ご安心を」
「だとよ、マスター。さっそく、前祝いといこうぜ」
皆の注目を浴びながら、リベルテ達は空いている丸テーブルに座り、今日一日の出来事を話し始めた。
これに黒猫マックスが、いくつか補足した。
それらを総合すると、ジジの失踪以降の話は次の通りである。
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