第190話 魔王討伐期限まで後三日
翌日を入れて三日間は、ジャクリーヌがヒルデガルトと一緒にどこかへ出かけたきり、帰ってこなかった。
ヒルデガルトを除いたピカール魔法組合の十一人全員がジャクリーヌに言われたことは、「アンヌばあさんの依頼をこなすこと」のただ一つ。
山のような依頼を次々と持ってくるアンヌばあさんのおかげで、仕事には困らないが、全員が討伐の期限が近づいていくことに気が気でない。
ジジは、黒猫マックスや宿屋の従業員の猫族マリー=フランソワーズ=ヴィクトワールが相手をしているので、退屈ではないようだが、時々窓の外を見て涙を流しているという。
気になる謎の女の子だ。
アンリは、「こっそり、討伐に行こうぜ」とトールをけしかけるが、彼はアネモネ・ロワが剣を鍛え上げたら行こうと考えていただけに、乗る気がない。
そうこうしているうちに、ジャクリーヌとヒルデガルトは、消えてから三日目の夜に戻ってきた。
食事中のトール達が彼女らの帰還に驚いていると、ジャクリーヌは「翌朝8時集合」と言って、またどこかへ去って行った。
ヒルデガルトの話によると、自分はヴェルサイユとルテティアで人型魔物を捜索していた、とのことで、ジャクリーヌが何をしていたかまではわからないとのことだった。
翌朝8時。
魔王討伐期限まで後三日である。
ピカール魔法組合の一階では、ジャクリーヌがタバコをくわえながら、十八人全員を前に作戦を伝えていた。
「昨日までに、昔の伝を頼って、ヴェルサイユの3つの魔法組合と、ルテティアの4つの魔法組合に、魔界の扉の捜索を依頼した」
彼女はここで、長めに煙を吐いた。
「魔界の扉が、なぜ同時に一つしか開かないのかが、情報屋からのたれ込みでやっとわかった。泥酔した人型魔物が口を滑らせたらしい」
そして、彼女はうまそうにタバコを吸う。
その長いこと。
聞き手は全員、その次の彼女の言葉を聞きたくて、耳が前に動いた。
「四年前、サン=ドニの魔界の扉から突入して、うちらは失敗したが、向こうも扉が一つで防御に失敗したと思ったらしい。それで今回、新たに三つ作った。ルテティアとヴェルサイユとガルネに。ところが、それが誤算だった。なぜだかわかるか?」
全員が沈黙する。
生徒が先生に指名されることを警戒しているかのように、彼らの体は硬直した。
「ルテティアとヴェルサイユの間は20キロメートル、ヴェルサイユとガルネの間は70キロメートル。おいおい、三つがこんなに離れていて、魔王の部屋はどこにあるんだ、と思うだろ? それが、不思議なことに、扉と魔王の部屋は、三つとも等距離なんだとさ。なぜだと思う?」
全員の沈黙は続く。
「物理的にではなく、魔力でつながっている。また、扉の開閉や防御に相当の魔力を使うらしい。しかも、それらの魔力は、魔王が供給しているらしい」
ここでトールは挙手をした。
「確かにあの巨大な扉は、人が近づくと自動的に閉まり、彫像が人を襲ったりしますから、相当の魔力だと思います」
ジャクリーヌは、トールの顔を見て「壁の男に、とっ捕まったよな」と言い、みんなの笑いを誘った。
「そう。あの魔王は、実は四年前の討伐の際に、うちらを負かしたものの、極端に臆病になった。それで、扉をいくつも作って攻撃を分散することを考えた。しかも、それの維持に自分の膨大な魔力を使っている。さらに白ファミーユを惑わして味方に引き入れ、魔力の低下で弱くなった防御を補強した。奴らは今、このガルネに潜伏している。こちらの動きを監視しているのだろう。それだけ、あの魔王は追い込まれているということだ」
ここで、ヒルデガルトが挙手をする。
「少し違うと思う」




