第184話 想定外の敵
とその時、トールの右側から「キャー!」とシャルロッテの叫び声が聞こえてきた。
見ると、彼女が後ろから男に羽交い締めにされている。
他にも男が二人、マリー=ルイーゼ達に飛びかかろうとしているところだった。
強盗の町民が人を襲っているのか?
「野郎!」
ジャクリーヌは、まるでヒョウのごとく、男へ飛びかかり、あっという間に三人を叩きのめした。
そして、彼女は倒れて仰向けになった男の胸に、渾身の力を込めて強烈な一撃を与えた。
すると、男達は光の粒になって消えていく。
人型の魔物である。
その間に、トールは、強化魔法と防御魔法で戦闘準備を整えた。
彼が今頃になって施した理由は、この魔法を使うと全身が光ってしまい、隠れることができないからだ。
「しまった! 前に気を取られていた!」
そう言う彼女が指さす方向を見ると、自分たちから見て2列後方の3つの墓石が動いていて、こちらも3つの四角い穴が口を開けている。
でも、ほぼ同時に6箇所の穴を三人で開けられるのか?
トールはハッとして、先ほどまで監視していた墓石の方を見た。
いた。
案の定だ。
3つの穴のそばに、黒いローブを着て、黒いフードを頭からすっぽりかぶり、顔を隠した三人が立っている。
彼らは右手のひらをトールに向けて、次々と魔法名を叫ぶ。
「雷!」
「槍!」
「突風!」
彼らの手の先にある輝く魔方陣から、横向きの雷、3メートもの槍、轟音を伴う突風が発射され、トールを襲う。
だが、防御魔法を施しているトールの前には、そんなものは子供だましの魔法。
小規模の爆発はあったものの、彼は平然と立っていて、1センチも動いていない。
すると、真ん中にいた人物がヒューッと口笛を吹いて、感嘆の声を上げる。
「さっすが、世界最強の魔力を持つ子だね。これでも、ちょっとは力を入れてみたんだが、全力で行かないと駄目ってことか。いやはや……」
とその時、ジャクリーヌが狼狽えた。
「そ、その声は……! まさか……!?」
男は、ちょっと間を置いて答える。
「あーあ。裏声を使うつもりが、つい地声になってしまったね。その子のせいだ。……そうだよ。そのまさかだよ」
すると、三人の男が一斉にフードを上げて、顔を見せた。
ジャクリーヌは、驚きのあまり、声も出ない。
「どうしたんだい、ジャクリーヌ姉さん? 幽霊でも見ているような顔をして。僕たちがここにいてはいけないとでも? 今の姉さんの顔を、魔王様の前に見せたいよ。どうだい? 今から魔王様に謁見に行くかい?」
ジャクリーヌは、魔王と聞いて、大いに奮い立って声を出す。
「ああ、願ってもない話だね! 今から謁見に行こうか!?」
だが、男は、ニヤニヤして肩をすくめ、冷たく言い放つ。
「その代わり、そいつら全員が死ぬことになるけど。四年前を再現してもいいのかな?」




