第181話 ポーションのおまけが強力なアイテム
イヴォンヌとイゾルデは、まだ道に迷っていた。
単に通りを一つ間違えただけなのだが、迷路のような裏通りに紛れ込んでしまい、抜けられないでいる。
イヴォンヌは、不安を紛らわすため、イゾルデに声をかける。
「ねえ。水薬って、前世の何かのRPGゲームに出てくるポーションと発音が似ていないかしら?」
「確かに、そうかも」
イゾルデも不安なので、声を出して気持ちを紛らわした。
「魔力全回復のアイテムかしら?」
「うん、そうじゃない?」
などと話ながら、二人はようやく店の前にたどり着いた。
看板には、いかにも怪しげな文字で「べー魔法道具店」と書かれている。
イヴォンヌが恐る恐る扉を開けると、薄暗い店内は怪しい道具でいっぱいだった。
二人は入るか入るまいか迷っていると、何かの力に引き込まれ、店内へ転がり込んでしまった。
扉は、彼女達の背後で、バタンと音を立てて閉まった。
彼女達は、床にしこたま打った頭を抱えていると、紫のローブを着て、紫のフードをかぶった中年女性が現れた。
女性は、何も言わずに上から二人を睨んでいる。
イヴォンヌが、「あのー、ジャクリーヌさんの依頼で、水薬をあるだけ買ってこいと言われまして」と用件を伝えると、女性はニコッと笑った。
そして、店の一番奥まで歩いて行って、壁にもたれながら腕を組み、優しい声で恐ろしいことを口にし始めた。
「いよいよ殺し合いが始まるのね。彼女が水薬をあるだけ求めるときは、いつもそう。剣を振り回しながら飲み干して、全回復し、敵の首を刎ね続けるのよ、彼女ったら」
イヴォンヌとイゾルデは、ジャクリーヌがそうやって戦う場面を想像し、身震いした。
女性は言葉を続ける。
「私は、アンジェリーク・べー。このお店を長いことやっているけど、この辺りじゃ、彼女が一番のお得意様ね。どうせ、『ツケにしろ』って言われてきたのでしょう? なら間違いなく殺し合いね。支払いは、賞金が手に入ってからだから。ちょうどさっき、100本入荷したから、そこにあるのを全部持って行きなさい。しょっていく袋をおまけにつけてあげるから」
アンジェリークが指さす先には、細長くて濃い青色の小瓶が所狭しと並んでいた。
よく見ると、上の部分が丸くて、その下がキュッとくびれており、頭と胴体しかない人間のようにも見える。
その容器を見ていると吸い込まれそうなほど神秘的な色なので、いかにも魔力が全回復する液体が入っていそうだ。
イヴォンヌとイゾルデが50本ずつ二つの袋に分けて入れて、それを背中にしょった。
50本もあると、小瓶でもさすがに重い。
そして、彼女達が挨拶をしようとした途端、アンジェリークが右手のひらを彼女達へ向けた。
「ちょっと待って。いいものをおまけにあげる。彼女に怒られるかもしれないけど、この私が使いなさいと言ってた、って言いなさい。きっと、何かの役に立つわよ」
そう言ってアンジェリークが、棚の奥からゴソゴソと化粧品やら装飾品を出してきた。
イゾルデが、「私達、まだ十五なので、化粧はしません」と言ったが、アンジェリークは二人の両手に化粧品と装飾品を手渡した。
そして、どこか遠くを見ているような目で語り始める。
「四年前、彼女がまだマスターになっていないとき、水薬を買い込んで魔王討伐へ出かけたの。でも、備えを魔力と体力の全回復だけに絞ったのが、そもそもの間違いだったのよ。魔王討伐は失敗。今回おまけにあげるものを使えば、きっと役に立つわ」
それから、イヴォンヌとイゾルデは、アンジェリークからおまけの説明を受けた。
口紅は、1分間、魔力の限界値を引き上げるもの。
オーデコロンは、1分間、防御力を高めるもの。
ファンデーションは、1分間、自分が透明になれるもの。
アンクレットは、1分間、脚力を引き上げるもの。
ピアスは、1分間、相手に幻覚を見せるもの。
ブレスレットは、1分間、瞬発力を上げるもの。
いずれも、1回限りの効果しかない。
店の外へ出たイゾルデは、「こんなおまけ、何の役に立つの?」と首をかしげた。
イヴォンヌも、「なんか、前世の女の子向けRPGゲームに出てきそうなアイテム」と笑った。
そして、これらをトールに全部つけさせると、とんでもなく最強になりそうだという話になり、二人は大笑いした。
『最強』に対して笑ったのではなく、『女装したトール』を想像して笑ったのである。




