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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第三章 魔王討伐編

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第180話 帝国最高の武器職人

 トール達三人は、地図に示されたポー武器店の前に立った。

 しかし、彼らは中に入ろうとせず、躊躇したままだ。

 なぜなら、店の名前はポーで合っているのだが、看板がパン屋なのだ。

 トールは、「地図の間違いかな?」と言いながら、地図と看板へ視線を往復する。

 シャルロッテは、「まあ、いいから入ってみましょうよ」と言って、扉を思いっきり開けた。


「すみませーん!」

 彼女が、中に入って大声を上げる。

 しかし、誰もいない。

 それ以前に、パンなどどこにもない。

 店の中が、がらんどうなのだ。


 マリー=ルイーゼが店の中に入り、「倒産したのかな?」と言って辺りをキョロキョロする。

 トールも中に入って、「ポー武器店はこちらですか!?」と声を張り上げる。

 しかし、彼らの声が反響する店内は、何も反応を返さない。

 三人が、どうしたものか、と困っていると、奥の壁に一つだけある扉がソッと開いた。

 しかし、開いただけで、誰も顔を出さない。人気もない。

 トールは、「行ってみようか?」といって、彼女達を従えて扉をくぐった。


 すると今度は、壁中に剣、刀、斧、槍、棍棒、魔弾のライフル銃等、多数の武器がかけられている光景が、彼らの目に飛び込んだ。

 遠くの方で、金属で金属を叩いているような音が聞こえている。

 三人が驚いて辺りを見渡していると、扉がひとりでに閉まった。

 トールが慌てて扉を開けようとするが、力を入れてもビクともしない。

 とその時、後ろから老婆のような声が聞こえてきた。


「なんだ、店に入ってきて、もう出て行くのかい? あんたら、冷やかしかい?」


 三人は声の方へ視線を向けて、同時にギョッとした。

 レジのカウンターみたいな所に、きらびやかなドレスを着た西洋人形が座っていて、瞬きをしながら足をぷらぷらさせているのだ。

 背丈は50センチメートルくらい。

 トールは人形の所へ近づいていき、恐る恐る声をかけた。


「あなたは?」

「この店の主人のアデーレ・ポーだよ」


「ピカール魔法組合(ギルド)のマスターから、こちらのお店のアネモネ・ロワさんを訪ねて、剣を鍛えてこいと言われたのですが」

「ジャクリーヌかい。どうせ、『ただし、ツケでって言え』、って言われたんだろう?」


「ええ、まあ」

「あいつがそういうときは、戦争がおっぱじまる時さ。四年前もそうだった」


「四年前?」

「ああ。ジャクリーヌが魔王討伐に挑んだ時のことよ」

 トールは、それを聞いてビクッとした。

 あのマスターが、自分と同じく、魔王討伐に挑んだ!?

 彼は、人形が語りかけるという怖さが消えて、この店の女主人アデーレに「もう少し詳しく聞かせてください」と頼んだ。


「ああ、いいよ。……あれは四年前、まだジャクリーヌが女勇者(エロー)で活躍していた頃、あいつは皇帝から依頼を受けて魔王討伐を行ったのさ。自分を入れてS級ランクの連中二十一人で。そしたら、あいつの最強の剣が魔王への最初の一太刀で折れて、仲間五人を失って、討伐は失敗。命からがら逃げてきた。さんざんな遠征さ」

「そうだったんですか……」


「残った十六人のうち、ジャクリーヌを入れて七人がピカール魔法組合(ギルド)を作った。そして、残り九人が……」

「九人が?」


「今の(ブラン)ファミーユを作ったのさ」

「!!」


「そうだ。ピカール魔法組合(ギルド)の壁に、頭の高さの位置にへこみがあるのを見たかい?」

「ええ。昨日、『これは何ですか?』ってマスターに聞いたんですが、教えてくれませんでした」


「遠征から命からがら戻って立ち寄った酒場で、悔しさのあまり、ジャクリーヌが拳で殴った跡さ。それを忘れないために、あの酒場を買い取り、あそこをピカール魔法組合(ギルド)の拠点としているわけ。……そうだ。昔話をし始めると、年寄りは止まらなくなっていけないね。剣を鍛えるんだっけ? おーい! アネモネや!」


 アデーレが大声でアネモネの名前を呼ぶと、遠くで聞こえていた金属音が止まった。

 それからしばらくして、先ほどトールが力を入れても開かなかった扉が、スーッと開いた。

 そこには、相撲取りのように太った女性の姿があった。

 仕事着は、はち切れそうなほどピチピチで、腕は丸太のように太い。


 アデーレが、「アネモネや。ジャクリーヌの依頼で、こちらの三人の剣を鍛えてほしいんだが」と言う。

 すると、アネモネと呼ばれた女性は、男みたいに低い声で「見せな」と言う。

 トールは長剣を、シャルロッテは日本刀を、マリー=ルイーゼは燃える剣を魔方陣から取り出した。

 彼らはそれをアネモネに見せようとしたが、彼女は一瞥しただけでフンと鼻を鳴らし、「なまくらな剣だ」と言い放った。

 トールは、今まで歴戦を切り抜けてきた自慢の剣を馬鹿にされてムッとしたが、帝国最高の武器職人と聞いているので、食って掛かるのを必死で我慢した。


「こんな芯がない、形だけの三本を鍛えろと、ジャクリーヌも無茶を言う。今から取りかかるとしても五日かかる」

 トールはアネモネの冷たい言葉に、さすがに我慢の限界を超えてしまう。

「そんなにかかるんですか!? 魔王討伐の期限は、あと七日なんですよ!」


「知るか。イヤなら、帰んな。そっちの期限で、こっちの期限が早まると思うなよ」

「せめて、四日――」


「今やっているジゼル・ジョルダン騎士長の剣の仕事を放り出して、今からこれを最優先にしても五日」

「そこを何とか――」


「それだけなまくらな剣なんだから、仕方ないだろ! 五日は譲れん!」

「そんな……」


「魔王を斬るんだろ!? 最後まで鍛えないと、あの魔王相手では簡単に折れる! 急がせたジャクリーヌのせいで強化が中途半端になった剣は、最初の一太刀で折れた。そうなってもいいのか!?」

「……」


 トール達は、仕方なくアネモネに剣を預けた。

 そして、彼らはアデーレから三人分の代替えの剣を借りると、無言でポー武器店を立ち去った。


 今から五日間、魔王とその手下相手に、心もとない代替えの剣で戦う。

 彼らはもう討伐に失敗したかのような落ち込んだ気分になり、ジャクリーヌの待つ場所へと重い足取りで戻っていった。


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