第18話 神に遣わされた子を引き取る
メビウスは、コホンと咳払いをして切り出す。
「神に遣わされた子がここに現れた、と聞きました」
プンペンマイヤーは、大切な者が盗まれるように思えて、拳に力を入れる。
「はて、そのような話をどこからお聞きになりましたのかな?」
「宮廷の魔法使いで、千里眼の持ち主がおります。この地の馬小屋で少年少女が現れた、と。その彼から聞きました」
本当は、千里眼の魔法使いは、「強大な魔力をカッツェンブローダ村の馬小屋に感じ、そこに少年少女がいる」と言っていたのだが、メビウスは『強大な魔力』を隠し、村の伝説を勝手に付加したのだ。
プンペンマイヤーは、参ったという顔をする。
そんな千里眼がいるなら、食事しているところまでものぞき見されているかもしれない。これは隠し通せない、と。
「確かに、そのような者は現れましたが、彼らをどうなさるおつもりで?」
「私どもに預けていただきたい」
「いえ、神に遣わされた子をどうなさるおつもりで?と伺っておるのです。預けた後のことですぞ」
メビウスは言いよどんだ。
これから自分達が少年少女にある施しをするのだが、そのことは村人にもバレるだろうと思った。
なんて答えよう?
一瞬、頭の中で策を検討したが、沈黙はかえって怪しまれる。
彼は観念し、正直に答える。
「この少年少女は、強い魔力を持っています。この魔力を皇帝陛下の御前にて披露するためです」
本当は、「強い魔力の持ち主だから研究材料に使うため」だった。
彼らは、魔力を研究する学者なのだ。
でも、露骨に言えないので、彼がとっさに思いついた嘘を口にした。
プンペンマイヤーは無言になった。
周囲の村人は時折顔を見合わせたり、ささやき合ったりして成り行きを見守っている。
この間を利用して、メビウスは、『さて、どう話を作ろうか』と考え始めた。
(神に遣わされた子なら、地上には身寄りがない。
うちでは、養うほどの金がない。
そうだ、陛下の側近とか、知り合いの養子にしてしまえばいい。
そうして、時々、研究に協力してもらおう)
メビウスは、怪しまれないよう、心の中でニヤニヤした。
プンペンマイヤーが重い口を開いた。
「披露した後、どうなさるおつもりで?」
メビウスは、本心を見透かされたのでは?とドキッとしたが、平静さを装い、今度は御上を盾にする。
「その後の処遇は、皇帝陛下がご決断なさります」
「では、村には戻ってこないこともあり得ると?」
「左様。御意には側近といえども逆らえませぬ」
皇帝陛下の名前を出されては、村長と言えども逆らえない。
「仕方ありますまい。お預けいたしましょう。」
「かたじけない。では、その子らに会わせていただけますかな?」
「昨日からずっと眠っておりますが、案内いたしましょう」
プンペンマイヤーを先頭にしたメビウス達一行は、好奇心旺盛な村人達を多数引き連れたまま、ハヤテ達が眠っている家を一軒一軒訪問した。
ここで、彼らが家の中で何をしていたのかを見てみよう。




