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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第三章 魔王討伐編

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第171話 魔王討伐の依頼主

 トール達の視線の先には、メインストリートの端からこちらに向かって駆けてくる白馬が九頭と、その後ろに続く四頭立ての馬車があった。

 白馬に乗っている人物は、全員が白い制服を着ている。

 馬車の方は、馬の肌の色や模様と、乗っている御者の背格好から、トール達の乗っていた馬車のようだ。


「おいおいおい! お偉いさんが総出で、何が始まるんだ!?」

 アンリは、大声を上げて眉をひそめた。

「魔物が現れたくらいで、あのお方様が勢揃いなさるなんて、どういう風の吹き回しかしら?」

 ディアヌは、顎に手を当てて怪訝そうな顔をした。

 他の魔法組合(ギルド)の連中も、二人の視線と同じ方向へ、心配そうな顔を向けている。


 馬上の人物の制服は、上から下まで眩しいくらい真っ白。

 それに大きめの金ボタンが並び、あちこちに金モールが縫い込んである。

 その姿から、(ブラン)ファミーユのメンバーであることは、初めて見るトールでも想像がついた。

 制服が身分を現す効果は、絶大だ。


 九頭の白馬は途中から足並みを揃えて減速し、トール達の5メートル手間で一斉にピタリと止まる。

 すると、白馬にまたがっていた者達が同時に馬から下りた。

 その下り方が、まるで練習したかのように、足の動き、身のこなしまでそっくり。

 彼らの無駄に統率感のある動きに、トールは感心するどころが、吹き出しそうになった。


 全員が地面に立つと、中央にいた金髪碧眼の壮年の紳士が、白猫を抱えながらトール達の方へ歩み寄ってきた。

 彼は、白猫にしか聞こえないような小声で「例の子供はどこにいる?」と尋ねた。

 すると、白猫はトールを一瞥し、低い声で「真ん中にいるガキ」とぶっきらぼうに答える。

 黒猫マックスと同じく、しゃべれる猫のようだ。

 紳士は一瞬だけ薄笑いを浮かべたが、すぐに柔和な表情になってその笑いをごまかした。

 そして、トールへ演技のような優しい目を向け、音吐朗々と台本を読むような言い回しで話し始めた。


「これはこれは、トール・ヴォルフ・ローテンシュタイン様。お初にお目に掛かります。わたくしは、(ブラン)ファミーユの代表を務めております、メルセンヌ公爵家当主のフランソア・ドゥ・メルセンヌでございます。此度は、我がフランク帝国の皇帝シャルル・ルイ=フェルディナン・ルゥ陛下より拝命し、トール・ヴォルフ・ローテンシュタイン様へ誠に僭越ながらご依頼申し上げました魔王(サタン)討伐の件、ご快諾いただきまして、誠に恐悦至極に存じます。つきましては、成功報酬の10%をお納めいただきたく、ここに参上した次第でございます――」


 とその時、ディアヌが緊張気味に言葉を挟んできた。

「あのー、ここでお言葉を差し挟む失礼をお許しくださいませ。このお方はトール・ヴォルフ・ローテンシュタイン・ドゥ・ルテティア様ではありませんか?」

 フランソアは、ディアヌの割り込みに眉を八の字にしたが、すぐに笑顔を取り戻す。

「ああ、ガロアがそのような称号を提案したのですね。では、爵位もすでにお伝えしているはずですな。では改めまして、男爵(バロン)トール・ヴォルフ・ローテンシュタイン・ドゥ・ルテティア様。こちらの書類に署名をお願いいたします。残りの90%は、討伐完了後に一括してお支払いいたします由もこちらに書いてございます」


 トールは、魔王討伐の話は今までガロアやイヴォンヌから聞いていただけなので、ここで(ブラン)ファミーユの代表であるフランソアにキチンと聞いておいた方がよいと思った。

 それで、型どおりな質問を始めた。

「今一度伺いますが、今回の依頼主はどなたですか?」

「このわたくしです」


「皇帝陛下ではないのですか?」

「貴方様への魔王討伐となりますと、わたくしになります。わたくしは、皇帝陛下より拝命いたしておりますが、皇帝陛下は貴方様への依頼主ではございません」


「皇帝陛下は、僕のことをご存じない?」

「さあ、どうでしょう……」


「成功報酬は、どなたが提供されるのですか?」

「貴方様への成功報酬のことですよね? それなら、(ブラン)ファミーユです」


「魔王討伐には(ブラン)ファミーユの協力をいただけるのですか?」

「いいえ」


「では、僕だけが実行するのですか?」

「その通りでございます」


「つまり、討伐は僕に丸投げと」

「ハハハ! 鋭いお方でございますなぁ! 恥も外聞も捨てて申し上げますと、そういうことになります。皇帝陛下から直接拝命することは、さすがの貴方様でもできませぬ故、(ブラン)ファミーユが仲介する形となります」


 フランソアの言葉が終わらないうちに、アンリがボソッと「ピンハネしてんじゃね?」と口にした。

 その言葉はトールの耳には届いたが、幸い、フランソアの耳には届かなかった。


 トールは依頼の実態を知らされて脱力した。

 仲介だろうが何だろうが、明らかに(ブラン)ファミーユの丸投げだからだ。

 皇帝から依頼されて、自分達は何もしない。

 それで彼は、イヴォンヌを救出した礼を述べる気が失せてしまった。


 なお、実際には、第一章をお読みの方はご存じのように、メビウスの助手がイヴォンヌを救出したところを(ブラン)ファミーユに横取りされたので、トールが礼を言わない方が正解だったのであるが。


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