第169話 白骨部隊と人型の魔物達
トール達が立っているメインストリートの向こうから、銀色のスケイルアーマーを着用した白骨の兵士が、剣と盾を持ち、密集隊形でゆっくりと近づいてきている。
その数、ざっと数えても、百体は下らない。
だが、それらはトール達にとって、それほど問題ではない。
問題は、メインストリートにつながっている全ての路地から、次々と湧いてくる人型の魔物だ。
彼らは、町民と区別が付かない。
区別が付くとしたら、手に剣を持っていること、それをトール達に向けていることだ。
トールは、アンリ達とディアヌ達に尋ねる。
「町民のみんなは、今どこにいる? それと、魔法組合のメンバーも、今どこにいる?」
まず、アンリが回答する。
「うちのマスターが、町民を集会場に集めて結界を張っている。さっきまでそこにいた十数人が最後に集会場に入ったはずだから、全員避難ってとこだな」
そこに、ディアヌが言葉を続ける。
「ポアソン魔法組合のメンバーは、わたくしを含めてここにいる六名以外、全員町の外へ仕事に行っていますの」
「ということは――」
トールは周囲を見渡す。
「ここにいる僕ら以外は魔物だと思って良さそうだね。完全に囲まれたみたいだけど」
ディアヌも周囲を見渡して、震えながら言う。
「白骨の兵士は百人以上。人間の姿も……ざっと百人以上いますわね」
アンリは冷静さを無理に装っている様子で、トールの方を見る。
「ど、どうする? トールよ」
「町を壊してもいいなら、僕の一撃で、今ここにいる奴ら全員を吹き飛ばせるけど」
「そりゃ、ヤバいだろ。町を壊したら弁償する金がねえ」
「草原とかにおびき出せたらなぁ。二百人なんか、数のうちじゃないんだが」
「おいおい。すげーこと言うなぁ。どうやって一気に片をつけるんだ?」
「この拳で、地面を叩けば」
「どうなる?」
「直径100メートル以上の地面が爆発して、30メートルは陥没するね」
「ま、マジでやめてくれ! 俺たちまで巻き沿いにしないでくれ!」
「そう。だから、奴らの戦意をそぐ方法を考えている。つまり、攻め込んでも無駄だと思わせる」
「どうやって? ……お? 白骨の連中が止まったぞ」
「おおかた、連中のボスが降伏勧告をしに来るんだろう。……ほら、来た」
アンリとトールの見たとおり、密集隊形の白骨部隊は停止し、先頭の中央にいた兵士が一人歩み寄ってきた。
そいつは、トール達と10メートルの距離を置いて停止。
そして、唸るような低い声で話し始める。
「この町を明け渡せ。残るは貴様らだけだ。多勢に無勢。無駄な抵抗はやめろ」
アンリは小声でトールに伝達する。
「うちのマスターの結界は、中のものを完全に隠す。だから、気づいていねえみたいだ」
「それに、僕たちだけだと言っている。人質はいなさそうだね」
「聞いてみるか?」
「よろしく」
アンリは咳払いをして、白骨の兵士に大声で尋ねる。
「人質は俺たちだけってことか!?」
白骨の兵士は、頭蓋骨をカクカクと上下に振りながら答える。
「そう。貴様ら全員が人質みたいなものさ。さあ、観念して町を明け渡せ」
それを聞いたトールは、ニヤリと笑った。




