第167話 ギルド加入の条件
「魔法組合に入るには、どんな条件が必要? 後、待遇はどうなるの?」
トールの言葉に、ディアヌは待ってましたとばかり、笑顔で答える。
「何も条件はございません。あの魔界からの侵略者を一瞬で葬り去るお方に、何の条件がいりましょう? 即日、ギルドへの登録は完了で、S級ランクのカードを発行いたします。待遇は、優先的に依頼の案件を回しますわ」
「でも、あなたはポアソン魔法組合の支配人ではないですよね?」
「支配人? ああ、それは『マスター』で通じますわ。ええ。なんなら、ここにマスターのジャン=ジャック・ポアソンをお呼びし、この場で契約いたしましょうか?」
トールは、マルセルの方に向き直って質問する。
「そちらのピカール魔法組合は?」
マルセルは、ちょっと困ったような顔で答える。
「もちろん、即日登録でS級ランクのカードを発行、は同じだが、……案件となると――」
ここで、ディアヌが会話に割り込んできた。
「そっちの案件は、うちより断然少ないわよ。暇になるかもしれませんわ――」
マルセルが、すかさず反撃する。
「たりめえだろ! S級ランクの案件なんか、そんなに来ねーよ! そっちは、せいぜいA級案件止まりだろうが!」
トールは首をかしげる。
「ん? どういうこと? ポアソン魔法組合もピカール魔法組合も、僕らをS級ランク扱いしてくれるけど、もしかして、依頼の案件に違いがあるの?」
マルセルは、難しい顔をして、豊かな胸の前で腕組みをした。
そして、深呼吸をしてから、おもむろに回答を始めた。
「ちょっと、いきさつから話さないとな。……実は、ポアソン魔法組合から、当時S級ランクの女勇者、今は女マスターのジャクリーヌ・ピカールと、今ここにいるS級ランク六人が飛び出してピカール魔法組合を始めたのさ。だから、ポアソン魔法組合は、最高でもA級ランクしかいねえ。仕事も、A級ランク止まりで、実入りのいいS級ランクは受けられねえときた。だから、トールみたいなS級ランクが喉から手が出るほどほしいのさ」
ディアヌは、マルセルの言葉が図星らしく、横を向いてフンと鼻を鳴らした。
そんな彼女を見て、マルセルはニヤッと口角をつり上げて言葉を続ける。
「で、うちらのところにS級ランクの案件が来るんだが、ガルネは田舎町なんで、そうそうS級の仕事なんか、ねえ。首都のルテティアとか、ヴェルサイユとかの大都市なら別だが。それで何をしているかというと――」
ここにディアヌが、哀れみの顔で言葉を投げかける。
「用心棒。魔界からこの町に侵入する悪者を退治しているの。いつ来るかわからない相手にジッとしていて、報酬は町民からの差し入れのみですけど」
マルセルは歯ぎしりをしながら言葉を続ける。
「まあ、実入りは小さいが、これも立派な依頼の案件なんだがね!」
「そんなにS級ランクのチームばかりを抱えて、そちらの魔法組合は何をしたいの? 少ない仕事の奪い合いになるわよ」
「そっちに逸材を取られたくねーんだよ!」
「わたくし達の勢力拡大を邪魔するおつもり?」
「あのオカマのマスター、ジャン=ジャック・ポアソンを追い払ってくれたら、そっちに戻ってやってもいいんだがな! あいつは魔力の高い奴に嫉妬深いし、一緒にいるとろくなことがねえ。それがイヤで、うちらが今のマスターと一緒に飛び出したんだからな!」
二人が言い争う中、ヒルデガルトよりさらに頭一つ低い老婆が、杖を突きながらトールに近づいてきた。




