第165話 異世界転生組の華麗な連続攻撃
まず、獣人族の一人が「その言葉に偽りはないな!?」と問う。
次に、人間の一人が「それは、誠だな!?」と言葉を継ぐ。
これだけでは、まだわからない。
トールは、ドキドキしながら無言を貫いた。
しばしの沈黙。加速する鼓動。
あまりに長いので、トールの鼓動の速さは極限にまで達した。
すると、人間の一人が叫んだ。
「ええい! 嘘を言うな! 魔王様は、俺たちに撤退命令なんか出すものか! 貴様の話は流言だ!」
トールは、ずっと堪えていた薄笑いを、待っていましたとばかり浮かべた。
「決まったな」
すると、マリー=ルイーゼが「十人分は任せて!」と言って、右手を高く上げた。
「火柱!」
彼女が高らかに魔法名を叫ぶと、十人の男達の足下に、橙色に輝く幾何学模様と古代文字の魔方陣が現れた。
急に足下が輝いたので驚いて下を見た男達は、たちまち3メートルもの火柱に包まれ、悲鳴を上げる。
そして、光の粒となって消滅した。
続いて、イゾルデが「私も十人分任せて!」と力強く言いながら、両足を大きく広げた。
「豆の木!」
彼女が魔法名を叫びながら、右手を高く上げ、左膝をついて、左手で石畳を勢いよく叩いた。
すると、十人の男達の足下で黄緑色に輝く幾何学模様と古代文字の魔方陣が現れた。
と同時に、足下の石畳が大きく割れ、中からボコボコと音を立てて、太い緑色の蔓が現れる。
それらは男達をきつく縛り上げて、ぐんぐんと上昇した。
10メートルもの空中で悲鳴を上げる男達。
彼らの体から骨の折れる音がしたかと思うと、次々と光の粒となって消えていった。
今度は、イヴォンヌが「残りは、私が!」と言って、両手をグイッと前に突き出した。
「巨大なつらら!」
彼女が力強く魔法名を叫ぶと、手の先に直径1メートルもの銀白色に輝く魔方陣が現れ、そこから十数本の鋭利なつららがヌッと出現した。
長さは1メートル、太さは最大で10センチはあって、つららと言うよりは、槍の形をしたロケットのようである。
それらは、空中に冷たい光の軌跡を描きながら、恐ろしい速さで目標めがけて飛んで行く。
十名以上の男達は全員、逃げる間もなく、つららに胸を射貫かれて、光の粒となった。
一人の男が『流言だ!』と言ってから、ここまで30秒も経っていない。
早回しの映画を見ているかのような急展開とあっけない決着に、六人の獣人族は、呆けた顔でただただ立ち尽くす。
「いやー。みんな、腕を上げたね。これなら、ダンジョンへ行っても、僕は何もすることがないかもね」
トールのべた褒めに、お手柄の三人は満面に笑みを浮かべた。
とその時、いつの間にか軍用ゴーグルを着用していたヒルデガルトがボソッと漏らす。
「来る」
しかし、トールの目の前には、キョロキョロと辺りを見渡す獣人族しかいない。
「どこから!?」
トールの問いに、ヒルデガルトは無言で、獣人族の後方にある十字路の左側を指さした。
ジッと耳を澄ましてみる。
燃えさかる炎の音に混じって、複数の足音が大きくなってきた。
大人数のようだ。
敵の増援か?
トール達が身構えていると、二人の男と四人の女が建物の陰から飛び出した。
男達は、灰色のクロスアーマーを着て、幅広のショートソードと盾を持っている。
二人の女は、レーザーアーマーに似た焦げ茶色の鎧を着て、長めの十字剣を持っている。
残りの女は、ケーンを持って紫の三角帽子に紫のローブという魔術師風。
彼らは獣人族を見つけると、見つけたぞと言う顔つきで走り寄ってきた。
やはり、敵の増援なのか?
イヴォンヌが、再度つららを発射しようと準備した。
しかし、獣人族の一人が片手を上げた。
「おう! こっちは終わったぜ!」
すると、六人は駆け足をやめて歩き始めた。
そして、先頭にいた屈強な男が軽く口笛を吹いて、ホッとしたように笑顔で言う。
「やるじゃないか! 敵がここに集結したと聞いたから応援に駆けつけたんだが、とんだ無駄足だったな!」
「やったのは、俺らじゃねえぜ」
「え? あんな大人数を誰がだい?」
「あっち、あっち」
「えええっ!? あのガキどもが!?」
六人の男女は、獣人族の脇で立ち止まり、信じられないという顔つきでトールを見やる。
そして、再び歩み始め、トール達へ近づいてきた。




