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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第157話 世界最強VS自称世界最強

 グスタフは薄め目を開けて、光り輝くトールの顔面へ、自慢のサウスポーのストレートを繰り出した。

 渾身の力を込めたので、彼の頭の中では、水平方向に吹き飛ぶトールの姿を描いた。

 肉体同士がぶつかり合う鈍い音が、部屋中の空気を振動させる。

 トールは簡単に吹き飛ぶ……はずだった。


「うわあああああっ!!」


 ところが、グスタフは悲鳴を上げ、左手を右手で押さえて、後ずさりした。

 あろうことか、殴られたトールの顔が1センチも動いていない。

 納得がいかないグスタフは、もう一度左手を大きく振りかぶり、全体重を乗せるように突き出した。


「ぐわあああああっ!!」


 またもやグスタフは、左手を右手で押さえる。

 これでもトールは動かない。

 まるで、固定された石像を叩いているかのようだ。

 グスタフは、あまりの痛さに、へなへなと座り込んでしまった。


「どうした? 世界最強なんだろ? それは自称か?」

「く、……くそっ! あの女、お前に何をした?」


「ああ、リミッタを解除しただけさ」

「リミッタだと!?」


「僕が強すぎるから、今まで魔力にリミッタをかけていたんだってさ」

 トールは、そこは嘘をついた。本当は体が耐えられないからなのだが。

「何だと!」

 グスタフは眩しいので、半開きの目でトールを睨み付けた。


「じゃあ、異世界最強の力を見せてやるか」

「何だ? その『異世界』って?」


「君達12(ツヴェルフ)ファミリーがのさばる、腐った世界のことさ」

「何だと!!」


「異世界最強の勇者(ヘルト)は、こういう力を出せるのさ。ほら」

 トールはそう言い終えるとしゃがみ込み、座っているグスタフの額にデコピンをする。

「ぎゃっ!!」

 グスタフは、ボールのようにゴロゴロと後転していく。

 トールは、ニコニコしながら後を追う。


「お次は、指一本で持ち上げて――」

 トールは、うつ伏せになったグスタフの襟と首との間に左手の人差し指を入れて、ひょいと上に放り投げた。

 指一本で、グスタフが嘘のように宙に浮いた。

「そして、ジャブを一発」

 トールは、落下するグスタフのみぞおちを、右の拳で少し強めに殴った。

「ぐえっ!!」

 グスタフは、コの字になって天井を突き破り、その上の部屋の天井もぶち抜いて、20メートルほど空を飛んだ。


 渾身の力を込めていないのに、巨体が吹き飛ぶ。

 トールは、このギャップがおかしくて、ニヤニヤと笑った。


 うつ伏せ状態で落下したグスタフは、ズシンと床に着地し、哀れな蛙のように手足を広げた。

「どうだい。屋上へ飛び出して見えた外の景色は? いい眺めだっただろ?」

 トールは、グスタフの脇腹を足蹴にして仰向けにし、左手で胸ぐらをつかんで立ち上がらせた。

「おい。寝ていないで起きろよ」

 そして、右手でグスタフの顔を1秒間に10発殴った。

 それが10秒間。まるで、マシンガンの掃射のように。

 彼の顔は、パンチングボールのように激しく揺れた。

 そして、鼻から口から、大量に血が吹き飛んだ。


「しっかし、タフな奴だな。12(ツヴェルフ)ファミリー流に言うなら『まだ首がつながってら』ってとこか。いっちょ、外で暴れるか?」

 今度は、トールはグスタフの背中を、外の景色が見える壁の穴に向けた。

「先に行け」

 そう言うと、グスタフのみぞおちに一発ジャブをお見舞いした。

 グスタフは水平方向に吹き飛び、絵に描いたように壁の穴を次々と通過して、城の外へ飛び出した。


「おっと。まだ落ちるなよな。六人分プラス先輩の分のお返しがあるから」

 トールは、目にもとまらぬ速さで各部屋を走り抜け、一緒に外へ飛び出した。

 そして、まだ水平方向に飛翔中のグスタフの胸ぐらを空中で捕まえると、右手で1秒間に6発のパンチを繰り出す。

 さらに、空中でグスタフの背中が下を向く体勢に回転させた。

「これで落ちろ!」

 グスタフの太めの腹に、トールは怒りを込めた一発を食らわせる。

 すると、グスタフは急加速で地上に落下し、鈍い音を立てて柔らかい地面に1メートルほどめり込んだ。

 トールも垂直に落下し、その人型の穴にまたがるように着地した。


「チェックメイト」


 彼は、渾身の力を右手の拳に込めて大きく振りかぶった。

 そして、空気を切り裂くようなスピードで、それをグスタフの胸に振り下ろす。


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 噴火のように吹き上がる土砂。

 激しく揺れる大地。

 年少組一年生の城全体がきしむ音。


 過去最高の特大級の一撃だ。


 土砂の煙が晴れる頃には、直径70メートル以上、深さ20メートル以上の陥没した穴ができていた。

 そして、穴の底の中央付近にある土砂がムクムクと盛り上がったかと思うと、光り輝くトールが立ち上がった。

 彼がのけた土砂のおかげで、埋もれていた敗者の無残な上半身が現れた。

 グスタフの体は魔法で強化していたとは言え、トールが繰り出す世界最強の一撃の前では無事でいられるはずがない。

 体の原形を保っていただけ、奇跡であった。

 自称最強は、完膚なきまでに打ちのめされたのだ。


 突然、穴の周囲に拍手が、歓声が巻き起こった。

 騒ぎを聞きつけた生徒達が、校庭からこの城の周りに集まっていたのだ。

 トールは穴の周囲を見渡して、喜色満面となった。

 だが、急にめまいが始まり、体がバラバラになりそうな感じがしてよろめいた。


「あ、ヤバいかも……。夢中で気づかなかったけど、今になって……利いてきた」


 彼は知らず知らずのうちに、限界の95%まで力を使っていたのだ。

 みんなの英雄(ヘルト)は、無様な姿を見せないように必死に堪えた。

 しかし、肉体の限界まで使った力に全身が耐えきれず、よろめいて、グスタフの横にうつ伏せに倒れ込んだ。

 生徒達のざわめきが耳朶を叩き、それが徐々に遠のいていくのを感じつつ、トールは意識を失った。


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