第150話 そして最後の一人が消えた
「フェリクス! 出てこい!」
しかし、拍手する生徒達の間から、彼が割って出てくる様子がない。
彼らしい顔も見えない。
トールは、フェリクスが紛れた辺りの人垣へ近づいていった。
「この辺にフェリクスはいませんか!?」
誰もが首を横に振る。
とその時、フェンスにもたれていた一人の女生徒が手を上げた。
「さっきまでここにいたけど、今の勝負が決まったら消えちゃった」
「消えた? どっちに行ったの?」
「知らない。ドロンと煙のように消えたから」
トールは、イヤな予感がして、その女生徒に尋ねた。
「学食の時間まで、後どのくらい?」
彼女は腕時計を見て「まだ1時間半くらいはあるわ」と言う。
少しは安心したトールだが、どうしても引っかかる。
トントン拍子で序列二位と、序列一位の二人、合わせて三人を倒したが、最後の一人がたっぷり時間を残して消えてしまった。
なぜだ?
トールは、カルルの説明したルールを、今一度振り返ってみた。
『基本は、全員が倒れた方が負け。今から、2時間後の時点で、どちらか全員が倒れていなければ、残っている男の人数の少ない方が負け』
「そうか! そういうことか!! 畜生!!!」
トールは、カルルの説明したルールの抜け道に気づき、激しく悔しがった。
つまり、全員倒れた時点で負けとなるが、そうでないなら、2時間後の時点で残っている男の人数で勝負が決まる。
ということは、逃げ回って時間を稼いでいればいいのだ。
そうすれば、トールは絶対に勝てない。
引き分けは勝ちではないのだから。
「それでフェリクスが逃げたんだ! 最後の最後まで卑怯な奴め!!」
トールは、跳び上がらんばかりに激高した。
まだ1時間半あるが、悠長なことを言ってはいられない。
学校の敷地の外に出られたら、おしまいだ。
ルールでは、敷地内とは一言も言っていない。
制限時間内に、全員が倒れた状態にする必要があるのだ。
今すぐにでも、フェリクスを倒す!!
ここでトールは、ある作戦を思いついた。
そして、ヒルデガルトがちょうどイヴォンヌ達と一緒にいるのを確認し、彼女の方へ全速力で駆けていった。




