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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第149話 マッスルの激突

 それは一瞬の出来事で、誰もが視認できない速さだった。

 巨体のグスタフが宙を跳び、斜め45度の角度から下に突進して、丸太のような腕で岩のような拳を突き出す。

 それを中腰のトールが、両手で受け止める。

 そういうプロセスを踏んだはずだが、目撃者の証言は「睨み合っていた二人が、次の瞬間、拳を受け止めた体勢になっていた」で一致した。

 トールがグスタフの拳を受け止めた衝撃音が、校庭の隅々まで駆け巡る。

 目にもとまらぬ速さの強烈な突きだが、驚いたことに、トールは1センチも後退していない。


 次は、グスタフが左足で着地して、柱のような右足で蹴り上げる。

 それをトールが両手で足の甲と足の裏を挟み、ひねることで左が下になるように横向きに倒す。

 これも、あまりの速さ故「拳を受け止めた体勢から、次の瞬間、足をつかまれて倒れていた」で証言が一致した。

 グスタフが倒れた振動音が、校庭を転がる。

 これでもトールは、足の位置を少しも変えていない。


 今度は、グスタフの左足の蹴りが、トールの胸を狙う。

 トールは、それを左手のひらで受け止める。

 グスタフは、右足を素速く動かすことでトールの右手を払いのけ、転がってから立ち上がった。

 巨体とは思えない俊敏さ。

 全てが魔力のなせる技なのだ。


 グスタフは、軽やかにステップを踏み、ボクシングの構えをする。

「これだけ突きや蹴りを繰り出しても、1センチも動いていないとは、やるな」

「そこは『1ミリも動いていない』と訂正してほしいね」

 大地に深く根を広げた樹木のように動かないトールは、ニヤリと笑った。


 次の瞬間、グスタフが、1秒間に10連続のジャブを、角度を変えながら繰り出す。

 トールはそれらを全て手のひらで受け止める。

 どの方向から飛んできても、だ。

 グスタフは、それを5秒間繰り返したが、あまりの速さで千手観音のように見えるトールの手が、全てのジャブを受けきった。


「なんて奴だ。柱を叩いているみたいだな」

「ふっ。なんなら、そろそろ動いてやろうか?」

 トールは、さらに腰を落として、グスタフの頭めがけて一気に跳躍した。

 急接近するトールに対し、両肘を顔の前に立てて防ぐグスタフ。

 だが、トールは迂回することなく、右手で正面突破の突きを繰り出した。

「むぅ!!」

 ズシンとくる衝撃。

 唸るグスタフ。

 足場のない空中での突きにもかかわらず、強烈なトールの一撃は、彼の体重よりも重い。

 まともにそれを食らったグスタスは、後ろにたじろいだ。


 そんな防戦に納得できないグスタフは、トールが着地するのを確認すると、また最初のように斜め45度の突きを繰り出した。

 ところが、これを食らう、もしくは受け止めるはずのトールが視界から消えてしまう。

 勢いが止まらないグスタフが体勢を崩すと、背中から重量感のある蹴りが入った。

 少し跳躍して横から回り込んだトールが、巧みに体を回転して繰り出した、豪快な回し蹴りだ。

「がはっ!!」

 グスタフは、顔からつんのめり、しこたま砂を噛む。


「なんだ。魔法で体を大きくしただけの、風船玉みたいな巨人(ギガントゥ)だな」

 尻の辺りから聞こえるトールの言葉で、グスタフは血管が切れるほど頭に血が上った。

「てめえ! 叩きのめしてやる!」

 不格好に起き上がったグスタフは、トールを探すが、視界に映らない。

「ちょこまか動くな!」

 グスタフは、周囲を見渡し、拳を振り上げて苛立つ。

 ところが、「キョロキョロすんなよ」というトールの声が降ってくる。

 声のする方を見上げたグスタフが、急接近するトールを確認したときはすでに遅かった。

 額に強烈な蹴りが入ったグスタフは、仰向けに倒れた。


 少し意識が飛んだグスタフは、「来いよ」というトールの声でハッとした。

 彼は、首を右に左に、肩を上下に動かして立ち上がった。

 トールは、度が過ぎるとは思ったが、きつい挑発を繰り返す。

12(ツヴェルフ)ファミリー流に言うなら、『なんだ、まだ首がつながっているじゃねえか』だな。どうした? もう終わりか? かかってこいよ」


「絶対に許せねぇ!」

 グスタフが憤怒の表情で、瞬時にトールへ突進し、今度はストレートを繰り出した。

 だが、腕の先にはトールの姿はなく、すでに懐に飛び込まれていた。


 トールは、宣告する。

「特待生は六人いるから、人数分な」


 一発目。

 グスタフは、みぞおち付近に重いパンチを食らい、体がくの字に曲がって、宙を浮く。

 二発目。

 グスタフの顎が跳ね上がり、拳を振り上げたトールは勢い余って3メートルほど跳躍する。

 三発目、四発目。

 跳躍しながら繰り出すトールの回し蹴りで、グスタフの頭が大きく左右に揺れる。

 五発目。

 顔面への蹴りが見事に入り、グスタフはよろめく。

「まだ倒れちゃ困るんだよ! これは記憶をなくしたシャルの敵討ち!!」

 六発目。

 トールの渾身のストレートがグスタフの体の中心を捕らえる。

 すると、グスタフの体はコの字に折れ曲がったまま、人間ロケットのように飛んでいった。

 その巨体は30メートルほどの放物線を描き、地面の上で鞠のように跳ねた。

 そして、彼は仰向けになったまま動かなくなった。


「おっと、もう一人いた。アーデルハイト先輩の分もな」

 トールは、瞬時にグスタフのそばに走り寄り、左手で胸ぐらをつかんで、軽々と上半身を持ち上げた。

 七発目。

 彼が大きく振りかぶった右の拳が、ピッチャーが剛速球を投げるようなスピードでグスタフの顔面に直撃した。

 ぐしゃっという音がしたかと思うと、グスタフの上半身は勢いよく倒れ、彼の後頭部が耳まで地面にめり込んだ。


 そして、敗者はピクリともしなくなった。


 突然、嵐のような拍手が巻き起こった。

 またもや、英雄(ヘルト)への賞賛だ。

 歓声が上がる。

 口笛も鳴る。

 全員の賞賛を浴びる中、トールは最後の相手である私闘の張本人フェリクスの姿を探した。


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