第142話 マリー=ルイーゼの地獄の炎
「いいよな!?」
フェニクスが一段と声を上げて迫ってきた。
マリー=ルイーゼは、その言葉に背中を押されたような気がして、決心がついた。
彼女は、大きくうなずいた。
「よし! こうやるんだよ!!」
フェニクスはマリー=ルイーゼの背後に立ち、そこから両手を回して、彼女の両腕をつかむ。
「腕を目一杯伸ばして! 右足前! 腰をちょい低く! 顎上げない! そう! そしたら、手のひらを相手に向けろ!」
「はい!」
「それから、こう叫ぶ! 劫火!!」
「劫火!」
「声が小さい!!」
「劫!! 火!!!!」
マリー=ルイーゼが魔法名を高らかに叫ぶと、いきなり直径2メートルもある深紅の幾何学模様と古代文字の魔方陣が現れた。
そして、魔方陣と同じ太さの火柱が、重低音を伴って噴射され、ヘルムートに襲いかかった。
その炎は、この世のものとは思えないほど赤々と燃え、あらゆるものを焼き尽くすかのようであった。
彼は、一瞬にして火柱に全身が飲み込まれ、大きくよろめいた。
しかし、すぐに体勢を立て直して仁王立ちとなり、全身を揺すりながら豪快に笑った。
「ハハハハハ! おお! いいぞ! いいぞ! 一応、極上の魔法だ! もっとよこせ! もっともっとよこせ! もっともっともっと!! ハハハハハ!」
そして、両手で体に炎を浴びせるような格好をする。
マリー=ルイーゼは、彼が炎を大量に浴びながらも嬉々としているので、空恐ろしくなってきた。
「彼が炎をどんどん吸収しています!」
「ああん? 吸収だぁ? 吸収、上等!!」
フェニクスは、マリー=ルイーゼの腕を強くつかんで固定したまま、鼻で笑う。
「いいえ、まずいです! このままだと、大量の魔法が奪われます!」
「だから、いいんだ、つってんだろ!」
「いったん、止めます!」
「馬鹿野郎!! ど阿呆めが!! このまま攻撃を続けないと、張り倒すぞ!!」
「は、はい!!」
「いいか、その目ではっきり見ろ! お前が持っている底なしの魔力を! それにぶつかるあいつが、どうなるかを!」
「はい!!」
「畜生! まだ笑っていやがる! この火の精霊、フェニクス様が伝授した魔法を舐めんなああああああああああっ!!」
フェニクスが一段と力を入れると、同期するようにマリー=ルイーゼの繰り出す火柱が勢いを増した。
放出される火柱の轟音がさらに響き渡り、大気をも震わせる。
それまで少し離れて行く末を見守っていたトール達は、尋常ならぬ熱気に肌が焦げそうになって、さらに遠くへ避難した。
「ワハハハハハハハハハハッ!! 最高だぜ!! 全身が魔力で満タンだ!! ワハハハハハハハハハハッ!!」
ヘルムートの高笑いは止まらない。
マリー=ルイーゼは、一瞬、諦めかけた。
しかし、フェニクスが背中から『諦めるな!』と声をかけているように思えたので、気持ちを引き締め、魔力を絞り出すように渾身の力を込めた。
「ワハハハハハハハハハハッ!! すげー! すげー! もう、一応、満タンになったぜ。……満タン。……満タン? ……満タン!? ……な、なにぃ!!??」




