第141話 緊急召還の代償
マリー=ルイーゼは、右手を高く上げたまま、天に向かって叫ぶ。
「来たれ! 偉大なる火の精霊よ!」
すると、彼女の足下に、直径3メートルほどの金色に輝く光の輪が現れた。
それが上に向かってゆっくりと、筒状に伸びていく。
まるで、彼女が光の筒の中に飲み込まれていくようだ。
光の筒は、彼女の姿を隠しても伸び続け、5メートルくらいの高さになって止まった。
そして、その筒はさらに輝きを増していく。
あまりのまぶしさに誰も目を開けていられなくなった。
まぶた越しに光が見えなくなったので、皆は目を開けた。
すると、マリー=ルイーゼの目の前に、恐ろしく背の高い女性が現れた。
彼女は金髪灼眼で、白いドレスを纏っている。
以前、メビウスの研究所の部屋へ乱入してきた、あの火の精霊、フェニクスだ。
フェニクスは、何やら不機嫌そうな顔でマリー=ルイーゼを睨み付け、あからさまに舌打ちをする。
「ちっ! んだよ! こっちは取り込み中だったのに、強制的に召還しやがって!」
「ご、ごめんなさい。緊急事態なの――」
「そんなの、わかってる! だから強制召還したんだろ? で、仕方なく来てやったんだが、これのどこが緊急事態なんだよ!? 見たところ、戦いの真っ最中って感じでもないし! 暇つぶしに、見世物として呼び出したんなら、ぶっ飛ばすからな!」
「ち、違います! あの男が、全ての魔法を吸収してしまうので、勝てません」
「だから、なんだよ?」
「え? いや、それが、その、あの、男にどうしても勝たないといけないのです」
「あいつに勝ちたいのか? お前が、か?」
「みんなが、です」
「みんな? 嘘言え! あのトールって子が、だろ? 勝たせたいんだろ?」
「えっ!? えっ!? えっ!?」
「お前の気持ちくらい、わかっているよ。照れてちゃって、意外と可愛いな。……ま、それはそうと、あの黒シャツの不細工な男に勝ちたいのか?」
「はい」
「お前、馬鹿か!? お前が今持っている力をガンガンぶつけりゃいいじゃんか!」
「ですから、ぶつけた魔法が全部吸収されてしまうので――」
「ごちゃごちゃ、うるせえんだよ! 言い訳しないでさっさとやれ!」
「やり方がわかりません……」
「おいおい……、だったら、最初からそう言え!!」
「は、はい!」
「しゃーない。いいだろう。お前にとっておきの魔法を授ける」
「ありがとうございます!」
「で、緊急召還した場合、対価をもらうことになっているのは教えたよな?」
「はい」
「覚悟の上だよな!?」
「はい!」
「じゃあ、勝利の対価はお前の寿命3年。いいな?」
「えええっ!?」
実は、マリー=ルイーゼは精霊との契約時に、緊急召還した場合は対価を求められることを聞かされていた。
しかし、それが何か、フェニクスは教えてくれなかった。
ただ、他の精霊もそうなので、フェニクスだけ意地悪ではないのだが。
実際に召還してみてわかった対価の中身。
3年の寿命と引き換えの勝利。
高い対価である。
彼女は、大いに迷った。
(それに見合う価値があるかも知れない。
でも、自分では決められない。
背中の一押しがほしい)
「決まったか?」
逡巡するマリー=ルイーゼは、フェニクスがかけてきた言葉にハッとした。




