第138話 序列二位と一位の登場
男は、立ったまま、トールの方を睨んでいる。
トールも男を睨むように見つめ、警戒した。
足踏み一つで陥没した大穴が埋まるとは、想像を絶する魔力だからだ。
そこへ、金髪で太った少年と、薄紫色の髪の毛で痩せた少年がやってきた。
トールは、薄紫色の髪の少年には見覚えがある。
確か、カルル・ブリューゲルだ。
他は見覚えがない。
二人が男と合流すると、三人揃って、トールの方へ近づいてきた。
そして、両者の距離が5メートルほどになると、三人は立ち止まる。
すると、男の方が先に口を開いた。
「先にこちらから挨拶しておく。なんでか知らんけど、一応、王族だしな」
トールは、この男の何かと『一応』と言う口癖よりも、まだポケットに手を突っ込んだままという態度の方が気に入らなかった。
「俺は、12ファミリー序列二番手ミヒェル伯爵家の、次男ヘルムート・ミヒェル。こんな格好をしているが、一応、年中組三年生だ」
学校とは無関係のどこかの用心棒みたいな男かと思っていたトールは、同じ学校の生徒だと聞いて、少し安心した。
次に金髪の少年と、薄紫色の髪の少年が続けて名乗る。
「俺は、12ファミリー序列一番手ブリューゲル公爵家の、次男グスタフ・ブリューゲル。同じく、年中組三年生」
「僕は、ブリューゲル公爵家の、三男カルル・ブリューゲル。年中組一年。前に一度、挨拶しているから知っているよね? そうだ、もう一人。……おい! フェリクス!」
すると、返事より早く、校庭の隅から走ってくる金髪の少年が見えた。
もちろん、彼は、入学式当日に今回の私闘を始めた張本人。
彼は、カルルの左横に立つと、直立不動で名乗った。
「ブリューゲル公爵家の、四男フェリクス・ブリューゲル」
トールは、四人を前に挨拶をかねて質問する。
「僕は、知っていると思うけど、トール・ヴォルフ・ローテンシュタイン。なぜ、四人がここに揃っているんだい?」
すると、グスタフが薄ら笑いを浮かべて答える。
「いけねえかよ?」
「場合によっては」
「言うじゃねえかよ。一気に決着をつけるためよ。ちんたらやっていると日が暮れるからな」
「四対一じゃ、卑怯じゃないか?」
「てめえ、抜かすんじゃねえよ! 五人も女を抱えているじゃねえか! 四対六だろ!」
グスタフが、トールの背後を指さす。
トールは、後ろを振り返ると、彼女達は三人のはずが、いつの間にか五人に増えている。
イヴォンヌもイゾルデも、気がかりで駆けつけたのだろう。
トールは、軽く舌打ちした。
こうも守るべき人が増えると、12ファミリーの卑怯者相手では、何かと不利であるからだ。
グスタフが、見下すような目つきで言う。
「てめえの方が数的に有利だが、今回は認めてやる。ルールは、カルルが説明するから、よく聞け」
カルルが、コホンと咳払いをして、人を馬鹿にするような目つきで説明を始める。
「勝負は、基本は、全員が倒れた方が負け。ただし、時間制限あり。学食で夕食が出る時間で終わり。今から、2時間後。その時点で、どちらか全員が倒れていなければ、残っている男の人数の少ない方が負け」
フェリクスが、緊張気味に声を出す。
「私闘なので、生死は問わない。勝敗が付くか時間が来るまで、何をやっても良い」
トールは、首をかしげた。
「おいおい。残っている男の人数の少ない方で勝敗が決まるって、どこの世界のルールだい?」
カルルが、ため息交じりに即答する。
「言葉通りだが何か? ああ、意味がわからないとか? なんだ、そこの金髪の豚と同じくらい、君は頭が悪いのかい?」
シャルロッテは、「金髪の豚」の言葉に反応し、「うっきー!」と怒りの叫び声を上げた。
彼は、吹き出しながら言葉を続ける。
「早い話、このルールは、君が僕たち全員を倒さないと君は勝てない、と言っているのさ」
ヘルムートが、自分を親指で指す。
「まずは、俺と勝負しようぜ。それとも、ボスとして最後に戦うか? なら、俺があの女どもを一人ずつ、一応、八つ裂きにして片付けるが」
獣のような目つき。
冷酷な宣戦布告。
トールは、ゾクッと身震いした。




