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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第136話 水の後は危険な電気

 トールとエレオノーレが穴の縁で対峙すると、まだ近くにいた生徒達は蜘蛛の子を散らすように逃げていく。

 たちまち、彼らの周囲は無人となった。

 睨み合う二人。

 トールは中段の構え。

 エレオノーレは、二本の剣を彼に向けて、今にも飛びかからんばかりの構え。


 彼は睨み合う視線を切らずに、ゆっくりと反時計回りに歩いた。

 向かう先は、穴の縁の方向だが、お構いなしだ。

 彼女は、常に彼の正面に立つように、歩幅を合わせ、こちらもゆっくりと足を進める。


 すると、どういうわけか、彼が穴の縁を背にして止まった。

 彼女は、眉をひそめる。

「いいのかい? そんな危ないところに立って。そういうのを背水の陣って言うのだよ。戦っている最中に、真っ逆さまに落ちるよ」

「お構いなく。これで気合いが入るから、僕は好きだね」


「ほう。面白いことを言う。自分を追い込んで力を出すタイプなんだ。でもそうやって、こちらから斬りかかっていったら、避けて足払いするのだろう?」

「まさか、君達12(ツヴェルフ)ファミリーじゃあるまいし。そこまで姑息じゃないさ」


「言うじゃないか。素人の剣術使い」

「そう。剣術は藤四郎だよ。藤四郎だから、大人しく――」

 トールはそう言うと、後ろ向きに走った。

「こうやって落ちるのさ!」

 彼は、仰向けの姿勢で、背中から穴へ飛び込んだ。

「ヒル! お願い!」

 ダイブした彼が残した声が、穴の中でこだました。


「なっ……!!」

 エレオノーレは、突然の彼の行動にギョッとした。

 とその時、ヒルデガルトの魔法名を唱える声が、彼女の鼓膜へ微かに届いた。


放水(ヴァッサー)(ヴェルファー)!!」


 ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!


 遅れて届いた巨大な重低音。

 彼女は音の方を見た。

 時すでに遅し。

 すでに眼前には、大量の水が壁となって彼女に襲いかかる。

「ぐはっ!!」

 一時は仰向けに倒れそうになった彼女だが、剣を顔の前に交差させ、前傾姿勢を取って必死に耐える。

 常人ならたちま吹き飛ばされるはずだが、彼女は魔力で水圧に抵抗しているのだ。

 だが、一向に勢いが衰えない水流は、真横から彼女を押しまくる。


 一方、穴の中に転がり込んだトールは、空中で器用に回転し、穴の中心へ見事に着地した。

 そして、長剣を足下に置き、ヒルデガルトから教わった魔法の構えを取り始めた。


 両手を胸の前に突き出して、右手が上、左手が下になるようにしてから、両方の手首をくっつける。

 そしてそのまま、大きめのボールをつかむような指の形にする。

 手首から先が、つぼみが開いて花になった形で完成だ。


 彼は中腰になり、渾身の気合いを入れた。

 すると、手の先で1メートルほどの銀白色に輝き、複雑な幾何学模様と大量の古代文字で埋め尽くされた魔方陣が出現した。

 体の芯で、大量の魔力がマグマのように対流する。

 全身が熱くなり、光り輝く。

 熱気が体からあふれ、毛穴から水蒸気でも吹き出しそうな感覚。

 彼はどこまで強くなったのか?


 実は、この時点で、彼は潜在能力の75%までの力を出せるようになっていた。

 100%まであと少し。

 もう一つ二つ、大技を覚えれば、彼の願いが叶うはずだ。


 その時、彼は、ふと独り言を言い始めた。

「思うんだけど、この型って、前世で見たアニメのドラゴンバルで主人公が使っている、得意技の型でもいいんじゃないかな?」

 ローテンシュタイン語のドラゴンバルとは、ドラゴンボールのことだが、得意技とは、もちろん『かめはめ波』のことである。

「この異世界でも、似たような技の型があるんだな。ちょっと真似して、自己流に右方向へひねりでも入れてみるか」

 彼は、ひねりの練習を始めた。

「この技の別名は何にしよう? なんとか波。……バッハ。……大バッハ。いいねえ。『大バッ波』なんてね。強そうじゃん。ここだけ日本語だけど、まあいいや」


 そう言いながらも、魔力の充填は完了した。

 本当は、彼は魔力の温存のために手抜きをするつもりだったが、この時点ですっかり忘れてしまい、全力で行くつもりになっていた。

 彼の悪い癖である。


 トールは、ヒルデガルトの見上げて叫ぶ。

「ヒル! もういいよ!」

 ヒルデガルトは、放水を止めた。

 びしょ濡れになったエレオノーレは、ヨロヨロしながら、目をしばしばさせて放水の主を探している。


 今がチャンス!


「水の後は、電気だぜ!!」

 トールはそう叫んで、腰を深く落とし、垂直方向へ一気に跳んだ。

 跳躍の頂点は、エレオノーレの頭付近の高さに合うように。

 引力は、彼を徐々に減速する。

 彼の目の前では、土壁が消えて、よろめくエレオノーレの足下が見えてくる。


「食らええええええええええええええええええええっ!!」


 彼は中腰になり、上昇しながら咆哮。

 予定通り、両方の腕を右の腰付近に回してひねりを入れる。

 そして、跳躍の頂点になった時、エレオノーレめがけて力強く両腕を突き出し、魔法名を叫ぶ。


(ドンナー)(ゴット)!!」


 トールの銀白色の魔方陣から、ジグザグに折れて枝分かれした強烈な光が発射された。

 それは、横向きの雷。

 本物のような雷鳴が、周囲の者達を恐怖に陥れる。


 バリバリバリ!!


 直撃を受けたエレオノーレと二本の剣は、音を立てて全身が白く光り輝き、火花のような放電が起こった。

 エレオノーレは激しく痙攣し、剣はドーベルマン犬とドラゴンの姿に戻って、こちらも感電したように痙攣する。

 彼らを包む光が消えると、意識を失った一人と二匹は、崩れるように地面に倒れた。

 そして、勝者トールは、穴の中へ華麗に着地する。


 生徒達は、あっけにとられて、全員が言葉を失った。

 しかし、シャルロッテが手を大きく叩いて拍手をする。

 マリー=ルイーゼ、ヒルデガルトがそれに続く。

 すると、生徒達は全員が拍手喝采となった。

 嵐のような拍手が、穴の中でこだまし、トールを包み込む。

 賞賛の声も降り注ぐ。

 口笛を鳴らすものまでいる。


 トールは、またもや英雄(ヘルト)になった。

 彼は、足下の長剣を魔方陣の中へしまった。

 だが、心中は穏やかではない。

 調子に乗りすぎて、大きく魔力を減らしてしまったのだ。


 黒猫マックスの予知では、ここで最強の奴が現れるはず。

 それは誰だ?

 彼は、拍手喝采する生徒達を穴の底から見渡し、魔力の強いオーラの持ち主を探した。


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