第135話 剣で舞う麗人
エレオノーレの剣捌きは、正に剣の舞。
メチャクチャに振り回していたアルフォンス・ミュラーのアバターとは、比較にならない。
すべての動きが優雅。華麗。そして、豪快。
トールの長剣は、1メートル半もあるリーチを生かして何とか防戦しているが、一方的な状況を打破できないでいる。
剣圧で吹き飛ばそうにも、彼女が常に接近戦へ持ち込むので、奥の手が封じられる。
さすがに彼の剣は折れることはなかったが、金属の摩擦による火花が連続し、そろそろ刃こぼれも始まっているはずだ。
すると、彼女は、数歩後ろに下がって、右手の指でカモンという仕草をする。
「ほら。そっちから、かかってきなよ」
「……」
トールは、罠だと思って、動かない。
「守りに徹して、体力の温存かな?」
「……」
彼は図星を突かれたが、沈黙を貫く。
彼女に全力をぶつけるわけには行かないのだ。
「じゃあ、こうしよう。どうもこの穴の底では、足場が悪い。観客も、ほら、上を見てごらん。あんな姿勢の見物じゃ気の毒だろう? 穴から出ないか?」
トールは、チラリと上を見ると、いつの間にか、穴の縁に鈴なりになって生徒達が覗き込んでいた。
かなりの数である。
年少組一年生と二年生以外に三年生以上の野次馬が、これ幸いと授業を抜け出して集まってきたようだ。
彼が乗ってこないので、エレオノーレは、さらに数メートル後ろへ下がった。
「ほら。ここまで下がったよ。その剣を振り下ろしてみたら? 凄い剣圧を見てみたいものだね」
トールは、やっと意味がわかったという顔をする。
「ああ、なるほどね。どうしても僕に魔力を使わせたいんだ。そのための挑発なんだろう?」
エレオノーレは、彼の言葉に鼻で笑う。
「結果的にそうなるかな? だって、君は剣捌きがまるでなっていない。そんな素人相手に勝っても、貴族の名折れだからね。だから、魔力のぶつかり合いを誘っているだよ」
『魔力のぶつかり合い』
その言葉に彼は、ひらめいた。
(ぶつかることなら、何をしてもいいよね。私闘なんだから)
そして、ヒルデガルトの方へ視線を向け、彼女に向かって「戦うと喉が渇くよ。『水』がたくさんほしいね」と言いつつ、目で合図を送った。
彼女はうなずく。
まさに、以心伝心。
それから、トールは、まだ生徒達がほとんど集まっていない穴の縁を探し、そこへ一気に跳躍した。
ヒルデガルトとの距離は15メートルほど。
彼は、周囲にいた生徒へ「ここで戦いが始まるから逃げて!」と遠ざける。
「おっ? やっと穴の外で戦う気になったらしい」
エレオノーレも、そこへ一気に駆け上がった。
だが、それはトールの罠だった。




