第133話 魔力が尽きた果てに起こること
トールは、黒猫マックスが足下に来たのでしゃがみ込み、日本語で声をかけた。
「ハナシッテ ナニ?」
「ナンダ コノ バカデカイ アナハ?」
「ハハハ! ゴメン。マダ、マホウノ テカゲンガ デキナインダ」
「ヒドイヤツダ。ナカマガ トジコメラレテイルヘヤヲ オシエヨウトシタノニ キエヤガッテ」
「イヤイヤ、ボクノ セイジャナイシ」
「ケッキョク アイツラハ ジリキデ ダッシュツシタガナ。ボウズノコトヲ ハクジョウナヤツト イッテイタ」
「ガクッ……」
「ソレヨリ、ボウズノ ミライガ ミエタ。マホウヲ ツカイキルナ。チョー ヤバイコトガオコル」
「ドンナコト?」
「ツカイキッタトコロニ サイキョウノヤツガ アラワレル」
トールは、黒猫マックスの予知にゾクッとした。
つまり、目の前にいるエレオノーレに全力で魔法をぶつけて、倒したとしよう。
それで、もし魔力が枯渇すると、そこに最強の敵が現れるというのだ。
「アノオンナハ オトリダ。ホントウノテキハ アトカラデテクル。キヲツケロ」
「アリガトウ!」
黒猫マックスは、「アナガ デカスギルゼ」とブツブツ言いながら坂を駆け上がっていった。
トールは、ヒルデガルトへ声をかける。
「ヒル。ボクハ マリョクヲ デキルダケ オンゾンスル。イザトイウトキ アノトキノマホウデ エンゴヲ オネガイ!」
「アイアイサー」
ヒルデガルトは、敬礼の仕草をした。
ちょうどその頃、ドラゴンのアドルフがヨロヨロとエレオノーレの左側に近づいてきた。
「お嬢。あいつの剣圧は、べらぼうだぜ。まともに食らったので、胸の骨にひびが入ったみたいだ」
「おお、アドルフが戻ってきたぜ。これで役者は揃ったな」
エレオノーレの右側にいるギュンターが、アドルフの方を見やる。
エレオノーレは軽くうなずき、二人を交互に見て言う。
「どうも、トールの力を侮ったようだ。こうなったら、最後の『あれ』で決着をつけるしかない。お前達、やれるな?」
「「へい! お任せあれ!」」
ギュンターとアドルフが同時に返事をすると、二匹はまばゆい光に包まれた。
その光が消えると、ギュンターは刀身が1メートル弱の黒い剣に、アドルフは同じ長さで刀身が赤黒く、炎に包まれた剣に変身していた。
剣戟による決戦を覚悟したトールは、「剣!」と叫んで、もう一度長剣を取り出す。
そして、左側に立つシャルロッテに目配せをし、互いに3メートルほど距離を取ってから、長剣を上段に構えた。
どちらか一方が攻撃を受けたら、背後から援護するためだ。
エレオノーレは、宙に浮く二本の剣を手に取って、剣先をトールとシャルロッテへ向ける。
「さあ! 剣戟の舞といこうか!」
そして、彼女は両手を斜め下、やや後ろに構え、腰が低い前傾姿勢を取り、一気に10メートル下の穴の底へ走り降りた。




