第13話 彼女達も道連れに転生させられた
残された彼女達三人は、ハヤテと黒猫が宙に浮いてフッと消える一部始終を見ていた。
恐怖にかられた彼女達は、お互いの肩を抱くようにして輪になり、震え上がった。
女は、そんな彼女達を見て、ニヤリと笑う。
「あなた達も同じところへ行きたいでしょう?」
そう言い放って、先ほどと同じポーズを取ってから詠唱する。
すると、彼女達三人も何ら同意する機会を与えられることなく宙に浮き、悲鳴を残してフッと消えた。
とその時、女は急に何かを思い出したようにパンと手を打つ。
「そうそう。あの子、生き返りたいって言っていたわよね? じゃあ、転生後は赤ちゃんからじゃなくて、今と同じ年齢の姿にしてあげる。あの姿で病院で生まれるわけにはいかないから、今回はあの場所へ……」
そうつぶやくと、急いで右手を高く掲げて、指をパチンと鳴らした。
「ウフッ、……これで、よしっと」
その数秒後、女はハッと顔色を変え、「いっけない!」と小さく叫ぶ。
彼女は何か失敗をやらかしたのか、目が大きく泳ぎ、口を両手で押さえて息を飲んだ。
「まずいわ。……あの男の子だけじゃなく、全員なっちゃった。……ま、いっか」
それから、また辺りは静寂が支配した。
唯一人、彼女だけがこの世界で生きているかのように。
気を取り直した彼女は、暇で仕方ないので、うーん、と大きな声を上げて背伸びをした。
とその時、彼女の後ろの方から、ため息の混じった少年の声が、反響音を伴って聞こえてきた。
「またいつものように相手の意向を確認しないで強制転生させるんだね」
彼女は、姿が見えず声だけしか聞こえてこない少年に対し、振り向きもせず受け答えする。
「別にいいじゃない」
「あれじゃ、納得感ないよ」
「だって、人手不足でしょう?」
「まあ、そりゃそうだけど、いくらあそこの世界は魔物にやられる奴らが多すぎるからって言ったって」
「だったら、私はその世界を助けている救世主よ」
少年が鼻で笑う。
「異世界転生で救世主? 僕には、君が転生と称して人材派遣業に精を出しているとしか思えないけどね」
彼女はククッと笑いを堪える。
「あらまあ、手厳しいこと」
「ハハハ。7割を地獄に送る君ほど厳しくはないさ」
「あら、5割のはずよ」
「へー。決めているんだ。閾値を」
「そう。天国と地獄で五分五分って」
「嘘だぁ。地獄以外は転生ばっかりじゃん」
「そっちが天国って人もいるはずよ」
「あの転生先が天国だって? またまたご冗談を」
「だから、世界の救世主なのよ」
「『だから』の意味がわからないけど。やっぱり、7割が地獄で合っているみたいだな」
「私は、あの黒猫がのたまわった『女閻魔様』じゃないわよ」
少年は、これには突っ込まず、話題を変えた。
「そういえばさー」
「なーに?」
「さっき指鳴らしたけれど、もしかして、『あれ』を使ったの?」
「そう、『あれ』を」
「滅多に使わない技じゃん」
「だって、赤ん坊からでも良かったのだけれど、生き返りたいって言うから、スタートを同じに年齢にしてやろうと。あの子、目が真剣だったし」
「へー、慈悲深いんだね」
「当たり前よ」
「女閻魔様にしては?」
「こらあっ!!」
「あの世界へ転生させる時に『あれ』を使うのは、もしかして初めてじゃない?」
「そうよ。他の世界への転生では何度かあったけれど」
「騒ぎが起きないかな?」
「なんで?」
「だって、種族が違うよ」
「えっ?」
「だから、転生先では同じ種族の赤ん坊の姿から始めるのに。今の姿と年齢で強制的に転生させるのなら、同じ種族がいる世界に転生させないと、誰こいつ?ってなるよ」
「……そっか。言われてみればそうよね」
「やっちゃったね」
「てへ。めんご。許して」
「僕に言われても」
「今度から気をつけまーす」
「おっと、誰か来たみたいだ」
「あら? ほんとだ」
「じゃあね」
「それじゃ」
それから彼女は、遠くからこちらに向かってキョロキョロしながら腕を組んで歩いてくる若いカップルを見つめていた。もちろん、彼女の目に映っているのは彼らの姿ではなく、彼らの過去の所業なのだが。
「さあって、あの人達、どうしましょうかしら?」
おっと、女は手を揉み出した。
カップルの運命やいかに。
それはさておき、先ほどのハヤテ達一行は、その後どうなったのであろうか?
無事に異世界へ、同じ姿で、同じ年齢で転生できたのだろうか??
最強の勇者に、そして可愛い魔法使いになれたのだろうか???
ここで、彼らの転生先の異世界へ場面を移そう。
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