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僕と幼馴染みと黒猫の異世界冒険譚  作者: s_stein
第二章 魔法学校編

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第128話 本物の人質は誰だ

 トールが再び意識を取り戻すと、マリー=ルイーゼをお姫様抱っこした格好で、穴の底に尻餅をついていた。

 ドーベルマンのギュンターによって、また戦いの場に連れ戻されたのだ。

 トールが唇を噛むと、上の方から壮年男性の恨めしそうな声が降り注ぐ。

「おう! さっきは、よくもやってくれたな!」

 彼は声の方向へ視線だけを投げた。

 穴の縁にいるドラゴンのアドルフが、破れた左の羽をふるふるさせながらトールを覗き込んでいる。

「この羽をどうしてくれる!? 飛べないドラゴンなんか、笑いものだぜ! 絶対に訴えてやる!」


 トールは、恨み節を続けるアドルフへニヤニヤした顔を投げかける。

 そして、マリー=ルイーゼを少し乱暴気味に左横へ放り投げた。

「おいおい、仲間だろ? それは乱暴すぎないか?」

 アドルフの言葉に、トールは吹き出した。

「こんなアバターなんかいらないね。一杯食わされたよ。さっきのイゾルデもそうだろう? まったく、子供だましだね」


「おい、ギュンター! バレたみたいだぞ!」

 アドルフは、ギュンターに向かって、慌てて声をかける。

「おいおい、バレたなんて、簡単に言うな」

「おっ、……そうか、すまん」

「まあ、仕方ない。……しょっちゅう抱いた女なら、体の凹凸も頭に入っているだろうから、すぐわかるよな、ハーレム王」

 ギュンターはトールを見下ろし、皮肉たっぷりの口調で、歯をむいて笑った。


 トールは、両手で長剣を構え、二匹と一人を睨み付ける。

「だから、もう心配する必要なんかないね。宙に浮いているのは、全部アバターだからさ。さてと、1分の制限はなくなったも同然。思う存分、勝負と行こうか。異世界最強相手に、覚悟した方がいいよ」

 そう言うと彼は、手ぬぐいを絞るように、固く柄を握りしめた。


 ところが、予想に反して、ギュンターは含み笑いをしたままだ。

「おっと、それはどうかな? 全部アバター? なぜそうだとわかる? たまたま続けて二体のアバターを抱きかかえただけじゃないのか? ふふふっ」

「どういうことだ!? ……そんなはずはない!」


「信じたくない、って顔に書いてあるな」

「嘘だ! 全部アバターだ!」


「なあ。俺は、宙に浮いている女が、全部本物とも全部偽者とも言っていないぜ。最初の二人がアバターであることに気づいたら、どう判断するか試したんだけど、まんまと引っかかりやがって。ほんと、ハーレム王は女に狂って、おつむまでいかれているぜ。後の三人が本物だったら、どうするよ?」


 トールは、全身の血が引いていくように感じた。


(そうだ、全部偽者って、確認していない!

 自分が勝手に決めつけたことじゃないか!

 おそらく、とっくに30秒を過ぎた頃だ。

 もしかしたら、生身の人間が落ちてくる!)


 彼は、マリー=ルイーゼのアバターを抱えてすぐさま振り向くと、穴の縁まで一気に跳んだ。

 校庭の端に向かって走ると、途中でぶつからない。

 案の定、結界は解除されていた。

 そして、イゾルデのアバターの横に、抱えていたアバターを置くと、またもや一目散に城に向かって坂を駆け下りた。


「すべての行動が読まれている! あの犬の思惑通りに動かされている! 完全に操られている!」

 トールは走りながら叫び、悔しさのあまり、血が滲むほど唇を噛んだ。


「完全に、はめられた! こんな屈辱はない! 敵が一枚上だったんだ!」


 異世界最強の力で吹き飛ばすなんて、格好いいことを言ってみたが、こういう策略を前にすると、なんと自分が無力であることか。

 次は本物の誰かが落下する、という恐怖。

 実はそれもアバターで騙されている、という疑念。

 彼の頭の中ではそれらがぐるぐると巡る。

 当然、足の動きが鈍くなり、速度も落ちる。


 彼は立ち止まり、遅くなる自分の足に発破をかけるように両手で腿を叩く。

「急げ! 走れ!」

 それから、再び坂を駆け下りた。


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