第125話 一千本の槍
トールが決意を固め、まだ宙に浮いている仲間の方を見た。
あの高さにまでジャンプして、彼女達を助けることはできないだろうか?
もしかしたら、できるかもしれない。
彼は、イゾルデを安全な場所へ移動するため、彼女を抱きかかえた。
とその時、彼は急に意識を失った。
そして、ハッと気がついたときは、イゾルデを抱きかかえた状態で校庭に立っていた。
先ほどと同じく、ドーベルマンのギュンターの魔法で、強制的に校庭へ連れてこられたのだ。
「何ボーッとしているんだよ? 1分経過だぜ! 次は、ド派手に行くから覚悟しな!」
ハンスはそう言うと、短い手を振り上げて万歳の姿勢を取る。
すると、彼の頭の上に、長さが1メートルの槍が次々と現れ、密集していく。
あれよあれよという間に、槍の大集団が出現した。
「さあってと。おい、上をよく見なよ! この槍、一千本あるぜ! すげーだろ!? 今から、その人質めがけて飛んでくから、ちゃんと守ってあげな! ハーレム王だろ!? 大事な女の子だろ? ほーら、よっと!」
トールは考えた。
(一千本もの槍が一度に密集してイゾルデに飛んでくるわけがない。
槍同士がぶつかるからだ。
ならば、段階的に飛んでくる。
五月雨式に、だ)
(となれば、早ければ早いほど、空中に大量の槍が残っているはず。
それは、ハンスの頭の上にとどまったまま。
結界の天井近くまであるだろう)
(天井はどこだ?
結界はおそらく、半球状のはず。
ならば高さは30メートル。
槍はそれ以上、上へは行けない。
そうだ!
あの手を使って、いっぺんに片をつけよう!
最悪、結界は立方体かもしれない。
そうなれば天井はもっと高くて失敗するが。
ええい! ここは賭けだ!
よし! 行くぜ!)
彼がここまで考えていると、槍の第一陣が発射された。
その数、およそ百本。
まだ10分の1だ。
風を切る音を立てて、百本槍が獲物を狙う。
軌道を確認している暇などない。
彼はイゾルデを脇に抱えると、ハンスの真下へと突進した。
「たわけめ! その槍は、逃げる相手を追いかけるぜ!」
ハンスの言葉通り、まるで追尾型ミサイルのように、槍が向きを変えてトール達を追いかけてきた。
だが、追いかけてくることは、すでにトールの頭の中では計算に入っていた。
(それでも勝算はある!)
トールは、ハンスの真下に達して、ピタリと立ち止まった。
そして、いったん剣を地面において、イゾルデを背負う。
とその時、一瞬、背中を通じて感じる違和感が。
(ん? これ、イゾルデ?)
だが、彼はその違和感を無視して、鬼のような形相で気合いを入れた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
何をするのか?
槍がすぐそこまで来ているのに!
「……っ! まずい!! ハンス!!!」
エレオノーレが、トールの真上であぐらをかくハンスに向かって叫ぶ。
彼女だけが、トールの意図に気づいたのだ。
だが、すでに遅かった。
トールは剣を左手に持ち、目一杯背伸びをして、右手の拳を高く振り上げた。




